AGA(男性型脱毛症)
最近よく耳にするようになった、「AGA(エージーエー)」とは、男性型脱毛症(androgenetic alopecia)の略称です。AGAでは、男性ホルモンの作用により、特に頭頂部と前頭部の脱毛症状がみられます。男性ホルモンの中でも特に脱毛に関わると言われる、「ジヒドロテストステロン」という物質を抑える飲み薬がよく効くため、使用されることが増えています。ただし、これらの薬は健康保険が適用されないため自費診療となります。
目次
AGAとは(概要)
男性型脱毛症(AGA)は、男性ホルモンの分泌が増えてくる思春期以降に発生します。早ければ20代後半くらいから発症して、歳を重ねるとだんだんと進んでくるのが特徴です。
AGAの脱毛のパターンには特徴があります。1つ目は、前頭部の髪の生え際がM字型に薄くなるパターンです。もう1つは、頭頂部がO型に薄くなり、その範囲が徐々に広がるパターンです。
AGAの方の毛根では、髪の毛の生まれ変わる「ヘアサイクル」の中でも、髪の毛が伸びる成長段階の時期が短くなるため、早く髪の毛が抜けると言われます。
初期段階では、髪の毛が細くなりコシが失われるため、ボリューム感が減ります。やがて脱毛が始まりいよいよ髪の毛が薄くなります。20歳代で10%、50歳代以降では40%もの方がAGAで悩んでいると言われています。
AGAの原因
AGAの原因は男性ホルモンです。ひげや胸毛、陰毛などの体毛は男性ホルモンの影響で濃くなります。
ところが逆に、前頭部や頭頂部の髪の毛に対しては、「ヘアサイクル」の成長期を短くすることで、毛が細く短くなり、やがて抜けやすくなってきます。
ただし、単に男性ホルモンが多いから、と一言で片付けられるものでもありません。「男性ホルモン」は数種類のホルモンの総称で、その中でも「テストステロン」という物質は、男性にとって、性欲や筋力、活力の源になる中心的で重要なホルモンです。
AGAでは、この「テストステロン」から作られる「ジヒドロテストステロン」という物質が悪さをします。
実は、この「ジヒドロテストステロン」は泌尿器科領域では以前からよく知られた物質です。
歳をとった方が尿の勢いが弱くなる原因として知られる「前立腺肥大症」も、この「ジヒドロテストステロン」が原因で起こるとされているからです。
AGAや前立腺肥大症、ニキビなどの原因になることから、「ジヒドロテストステロン」は「悪玉テストステロン」などと呼ばれることもあります。
また、AGAの原因として「ジヒドロテストステロン」の量だけが問題というわけではありません。
遺伝的に「ジヒドロテストステロン」に対する感受性が高いことが原因となっていることがあると言われます。
食生活やストレスなどの生活習慣による影響もあるでしょう。
具体的には、極端に栄養がかたよることで毛髪を作るために必要なミネラルである「亜鉛」や「鉄分」が不足します。
不規則な睡眠リズムによって睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が乱れ抜け毛の原因になり得ます。
また極度なストレスがかかると、人間の体は一時的な臨戦態勢を敷くために、「副腎」から「ステロイドホルモン」を分泌します。
「副腎」に「ステロイドホルモン」を出すように命令するホルモンは、脳の中の視床下部というところから出る「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」です。
AGAの治療:なぜ泌尿器科?
AGAの治療薬
さて、「悪玉テストステロン」である「ジヒドロテストステロン」がAGAの原因なのであれば、これを体内で作られないようにする薬で抜け毛が減るはずです。
その通りで、「ジヒドロテストステロン」を抑える薬が「5αリダクターゼ阻害薬」と呼ばれるカテゴリーの薬です。「フィナステリド(プロペシア)」や「デュタステリド(ザガーロ」」が日本で認可されAGAの治療薬として用いられます。
泌尿器科医はAGAの治療として「植毛」などの知識はそう深いわけではありません。ところが泌尿器科でAGAの治療を掲げているクリニックは比較的多いです。これはなぜでしょう?
なぜ泌尿器科?
1つには、AGAが男性ホルモンによって生じる主に男性の疾患だから、だと思います。
最近では女性が泌尿器科を受診されることも増えてきましたが、昔から泌尿器科は男性の悩みに応える診療科目です。
歳をとることによる気力や活力の衰えである「男性更年期障害」、男性器機能の衰えである「ED」、毛髪の衰えである「AGA」、これら男性の悩みを担当するのは、泌尿器科でしょう。
そしてもう1つが、AGAの治療に用いる「5αリダクターゼ阻害薬」を使い慣れている、ということが大きいと思います。
実は、AGAの薬として認可されるずっと以前から、「5αリダクターゼ阻害薬」の中でも「デュタステリド」は、泌尿器科でよく使用されてきました。
というのも、さきほども説明したように「デュタステリド」は、「悪玉テストステロン」である「ジヒドロテストステロン」を抑える薬です。
泌尿器科の病気で一番有名、とも言える「前立腺肥大症」の主な原因は「ジヒドロテストステロン」であるため、「デュタステリド」が治療に使われてきたのです。
「最近、尿の勢いが弱く、ジョボジョボっと途中で止まりそうになる、、」という方に、前立腺肥大症とし「デュタステリド」を飲み始めてもらいます。
半年ほどたつと「ジヒドロテストステロン」が抑えられ、前立腺が萎んで尿の勢いが復活するのです。
そのような方のなかには、「先生、なんだか髪の毛がふさふさになってきた」と報告してくださる方が、少なからずいらっしゃることを以前から経験してきました。
というわけで、泌尿器科では、「フィナステリド」や、「デュタステリド」がどんな薬がよく知られていたのです。そうするうちに、これらの薬がAGAの治療として日本でも使用可能になりました。
AGA治療薬の効果
いずれの薬も1年間飲み続けると95%以上の方(6割が毛量が増え、4割弱が現状維持)に効果が出ると言われています。ただし、治療効果は若い方のほうが出やすいと言われています。
というわけで、気になり始めたら若い時にAGAの治療を始めた方が良さそうなのですが、問題は「AGAは治るのか、いつ薬をやめればよいのか」ということと思います。
フィナステリド」や、「デュタステリド」は、中止するとやがて髪の毛は、その方にとっての年相応の本来の状態に戻ってしまいます。
なお、日本ではAGAの治療は保険適用となっていないため、「フィナステリド」や、「デュタステリド」いずれの薬も自費診療となります。通院は2〜3か月に1回程度です。
フィナステリドとデュタステリドの違い
フィナステリドとデュタステリドの違いはなんでしょう。
おおまかにいうと、デュタステリドの方がより広く「5αリダクターゼ」を抑えるため、デュタステリドのほうがAGAに対する効果が高いと言われます。
また、デュタステリドは前頭部により強い効果が出やすいと言われています。
ただし、デュタステリドとフィナステリドでは、副作用の面でも違いがあります。
一旦内服して体のなかで分解されて効果が半分になるのに、フィナステリドは数時間、デュタステリドは数週間かかると言われています。
ですので、以下に説明するような副作用が出た時に、その期間はデュタステリドで長くなります。
AGA治療薬の副作用:なぜ泌尿器科?
フィナステリドやデュタステリドは前立腺の細胞にも作用して、前立腺を萎ませる効果があります。
特にデュタステリドにはAGA治療役としての「ザガーロ」という名前と同時に、前立腺肥大症の治療薬として「アボルブ」という名前もつけられており、古くから前立腺肥大症の治療に使われてきました。
これらの薬は、前立腺をしぼませると同時に「前立腺がん」の腫瘍マーカーである「PSA」の値も下げると言われています。
つまり、フィナステリドやデュタステリドを飲んでいて「PSA」を測定すると、薬の影響で本来より低めの値が出て、仮に前立腺がんがあっても正常と判断されてしまう可能性があるということです。
泌尿器科医は前立腺がんの診断・治療の専門家です。「アボルブ」を飲んでいる前立腺肥大症の患者さまに対して、万が一「前立腺がん」ができても、これを見逃さないために気をつけるべきことがわかっています。
同じように、ザガーロ(デュタステリド)でAGAを治療中に方に対しても、対処が可能というわけです。
また、いくら「悪玉」という名前を付けられているとはいえ、「ジヒドロテストステロン」は「テストステロン」の何倍もの作用を持つされています。
この強力な男性ホルモンの1種を抑えるため、ED(勃起不全)、性欲減退、精液量の減少、射精障害などの性機能障害が出現する可能性もあります。
泌尿器科はこのような性機能障害の専門でもあります。万が一そのような副作用の恐れがあれば、「テストステロン」自体が下がってきていないか、また精液の所見などに問題がないかを確認することができます。
それ以外にも、フィナステリドやデュタステリドには以下のような副作用があると言われます。
- 肝機能障害
- じんましん、発疹などのアレルギー症状
- 勃起不全・射精障害などの性機能障害
- 抑うつ気分
- めまい
体調の変化を感じた場合は主治医伝えましょう。