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尿に糖がおりた(尿糖陽性)

「尿糖が陽性」とは、尿のなかの「ブドウ糖」の濃度が高いということを意味します。多くは、血液中の「ブドウ糖」の濃度が高い、つまり血糖値が高いことが原因となっており、「糖尿病」の可能性があります。生活習慣病を担当する内科、糖尿病内科を受診しましょう。また尿検査を主に行う泌尿器科や腎臓内科でも糖尿病の診断は可能です。

 

尿糖はどこから出る?

腎臓とは

「腎臓」は、体の中で背骨の左右に1つずつあり、大きさは握りこぶしくらいでソラマメに似た形をしています。「腎臓」は、尿をつくる臓器です。言い方を変えると、「腎臓」は体に溜まった血液中の老廃物や余分な水分や塩分を、尿として体の外へ出す働きを持っています。

「腎臓」の中でも尿を作っている中身の詰まった、いわば「実」の部分を「腎実質」と言います。「腎実質」には「毛細血管」、「糸球体(しきゅうたい)」、「尿細管(にょうさいかん)」という、細かい管がぎゅっと詰まっています。

糸球体とは

「腎臓」には非常にたくさんの血液が流れ込んでいます。そして血液は「腎臓」の中で「毛細血管」の中を流れて分かれていき、「糸球体」に入ります。1つの腎臓には100万個の糸球体があると言われています。「糸球体」の働きは、まず最初に血液から、”ざっくり”と老廃物や水分を抜き取る「フィルター装置」のようなものです。

老廃物や水分を抜き取られた血液は「糸球体」から出ていくいっぽう、「糸球体」で濾過された水分や老廃物は、「尿のもと」として「尿細管」に流れていきます。1日に150L以上の「尿のもと」が作られると言われます。この「尿のもと」の中にはもちろん老廃物も含まれますが、本当は必要だった水分やミネラルなども含まれてしまっています。「糸球体」は”ざっくり”とした濾過装置なのです。

 

尿細管とは

そこで「尿のもと」から不要な老廃物などをより分けて、本当に必要なものは血液の中に戻す装置が必要です。それが「尿細管」です。「尿のもと」が「尿細管」のなかを流れていく途中で、体にとって必要な栄養やミネラル、水分などが再吸収されてもういちど血液のなかに戻されます。

「尿細管」でミネラル、水分が再吸収されてだいぶ濃くなった「尿のもと」は、「尿細管」からやがて「集合管」へ流れていきます。「集合管」では、必要に応じてさらに必要に応じて水分が再吸収されて「尿のもと」は濃くなり、やがて最終的に「尿」となります。

「尿細管」や「集合管」で再吸収されるミネラルや水分の量は、ホルモンで微調整されており、体内の水分量やミネラル、酸性・アルカリ性のバランスが一定となるような仕組みになっています。

 

尿糖が陽性になる理由

尿中の「ブドウ糖」の濃度が高いと「尿糖が陽性」と判断されます。検診で行われる尿検査では、通常テステープという試験紙の微妙な色の違いで尿中の「ブドウ糖」の濃度を判定します。黄色い部分がほとんど変わらず黄色なら(-)、わずかに緑味を帯びたら(±)、以降段階的に緑の色が濃くなっていけば(+)、(++)、(+++)、(++++)、とプラスの数が多いほど、濃い「ブドウ糖」が出ているということになります。

ちなみに、朝食を食べる前の「血糖値」は、109mg/dLまでが正常、126mg/dL以上だと「糖尿病」と診断され、その間は「境界型」です。「血糖値」とは血液中の「ブドウ糖」の濃度のことです。食事をした後は、健康な人でも血糖値は126mg/dL以上となることもあります。ただし、健康な人では、食後に血糖値が上がると、すい臓から分泌されたインスリンが働くため、そこまで血糖値が高くなることはありません。食事をした後でも140mg/dL以上になると「境界型」、200mg/dLを超えると「糖尿病」となります。

さて、もともと「ブドウ糖」は人間の体にとって、非常に重要なエネルギー源です。しかし、「糸球体」で血液が濾過される時に、「ブドウ糖」は水分や老廃物と一緒に「尿のもと」に出てしまいます。このままでは、どんどんエネルギーを体外へ吐き出すこととなり困ります。そこで、「尿のもと」が「尿細管」を通るときに、ほとんどの「ブドウ糖」は体のなかに再吸収されます。

さて、健康な人の血糖値、つまり食後でも140mg/dL未満くらいだと、「尿のもと」の「ブドウ糖」はほとんど再吸収されます。すると、尿の「ブドウ糖」濃度は30mg/dL未満くらいとなります。ところが、血糖値が180mg/dLくらいになると、「尿細管」が「ブドウ糖」を再吸収する機能が限界となり、全ての「ブドウ糖」を回収しきれなくなります。すると、尿中のブドウ糖の濃度が30mg/dLよりも高くなり、「尿糖が陽性」になるわけです。

 

糖尿病とは

「糖尿病」は、すい臓から出る「インスリン」というホルモンが十分に働かず、血液中の「ブドウ糖」が増えすぎる、つまり「血糖値」が上がってしまう病気です。ちなみに、「ブドウ糖」は食事で摂取した炭水化物などが分解されて出来ます。全身の細胞に取り込まれてエネルギー源として利用される重要な物質です。本来なら上がりすぎないよう、下がりすぎないよう、「血糖値」が一定範囲に保たれるように調整されているのです。

遺伝的な体質や過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢、などが原因で、すい臓から出る「インスリン」が減ったり、「インスリン」は足りていても働きが弱くなることで「糖尿病」は発症します。

ちなみに血糖値が高いと、場合によっては「尿が泡立つ」、「喉が渇く」、「夜中に何度もトイレに行く」などの症状が出ることがあります。

ところが、ほとんどの方は、血糖値が高いこと自体ではあまり症状がなく、気づかないうちに「糖尿病」になっています。日本全国で1000万人以上、つまり10人に1人が糖尿病と言われています。いわゆる「糖尿病予備軍」である「境界型」を含めると、日本全国で2000万人以上、つまり5人に1人の計算となります。実にありふれた病気なのです。

糖尿病が治療されずに何年間も放置されると、全身の血管が傷つきます。すると、「腎不全」で透析療法が必要になったり、「糖尿病性網膜症」で失明したり、「糖尿病性神経症」や「糖尿病性壊疽」などで足を切断するような事態になります。また「心臓病」、「脳卒中」などの合併症は直接命に関わる怖い合併症です。糖尿病と診断された場合、「食事療法」、「運動療法」、「内服薬」、「インスリン注射」などで血糖値を適切に保ち、これらを防きます。

このように、糖尿病は「とてもありふれた病気」で、「初期のうちはほとんど症状がない」のに関わらず、「人生の後半を台無しにする怖い合併症を起こす可能性が高い」病気です。だからこそ、検診の尿検査で「尿糖が陽性」と言われた時は、医療機関を受診することを勧められるのです。

 

糖尿病の精密検査って

ちなみに尿糖が(±)の場合、尿中の「ブドウ糖」濃度は50mg/dL、(+)の場合は100mg/dL、(++++)になると1000mg/dLです。尿糖の結果が(±)だとします。血糖値は180mg/dLくらいなので、もしも空腹時に尿検査をして(±)だと「糖尿病」の可能性があります。食事を食べた後なら、せいぜい「境界型」くらいかもしれませんし、まれに食事の量やストレスなどの影響で、健康な人でも(±)くらいになることはあります。

逆に、尿糖が陰性(-)であったとしても血糖値が160mg/dL以下だったということしかわかりません。もしも尿検査を空腹時に受けており、その時の血糖値が150mg/dLでも、尿糖は陰性(-)となる可能性は高いです。すなわち、尿糖が陰性だからといって、糖尿病ではないとは言い切れないのです。以上のようなことから、少なくとも尿糖が(±)で引っかかった場合、医療機関で精密検査を勧められます。

そして、医療機関では、①空腹時血糖、②ヘモグロビンA1c(HbA1c;1〜2ヶ月間の血糖値を表す)、③75gOGTT(空腹時とブドウ糖を摂取して1、2時間後の血糖値を測る)などの採血検査を行い、糖尿病かそうでないかを判断します。

 

糖尿病以外で尿糖が陽性になる場合

「糸球体」で血液が濾過される時に、「ブドウ糖」は水分や老廃物と一緒に「尿のもと」に出てしまいます。本来なら、この「尿のもと」が「尿細管」を通るときに、ほとんどの「ブドウ糖」は体のなかに再吸収されます。ところが遺伝的に「尿細管」が「ブドウ糖」を再吸収する働きが弱い方がいます。このような方では、「血糖値」は正常なのに尿中にブドウ糖がたくさん出るため、「尿糖が陽性」になります。「腎性糖尿」と呼ばれます。

また、食事の量やストレスなどで、一時的に「ブドウ糖」の再吸収が減り「尿糖が陽性」となることがあるとも言われています。

 

泌尿器科専門医 石村武志

 

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