腎移植Q&A 腎臓をくれたお父さんよりもクレアチニンが低くて、、
腎移植が終わり、非常に順調に経過して退院していった女性Aさんがいます。
割と小柄は女性で細めの体格をしております。退院後、何度か診察に通ってもらうたびにいつも何か言いたそうですが、本当に順調に経過しており、採血検査でもほとんど異常がありません。
やがて3ヶ月が経過し入院して腎生検の検査を行いましたが、やはり結果は拒絶反応を認めず正常で、本当に順調です。
生検が終わって退院し、次の外来診察にきました。今日は腎臓を提供してくれたお父さんも定期検診で一緒に受診しています。
Aさんに、生検で異常を認めなかったことを説明して、今日の採血結果も説明します。クレアチニンは0.7と非常に良好な数値ですが、やはり何か言いたげです。
ついでお父さんの診察です。創部の痛みもほとんどなくなって元気に仕事をさ尿管癌ているそうです。退院した時には2kgほど減っていた体重ももとに戻り、血圧も正常、こちらも極めて順調です。
お父さんはもともとクレアチニンが0.8程度でしたが、腎臓が片方になったため、退院した時と本日ともクレアチニンが1.2程度で経過しています。十分想定の範囲かと思います。
診察を終えて横で説明を聞いていたAさんが小さな声で言いました。「入院中からずっと気になっていたんですが、腎臓をもらった私の方がクレアチニンがよくて、お父さんの方が悪くなっている。とても複雑な気分で気になって眠れないこともあります。」
こんなに順調に経過しているのに、もらった自分の腎臓を方が働きが良い、お父さんに残った腎臓の方が働きが悪い、と勘違いして、気に病んでいたようです。もっとしっかり説明をしておけばよかった、と反省しました。
男性と女性ではクレアチニンの正常値の範囲が違います。多くの男性では1.2まで女性では0.9までが正常値と定められています。
この違いは、主に男女の筋肉量の差から定められています。クレアチニンというと、腎臓の働きを示す数値で低ければ低いほど腎臓の働きがよい、と思いがちですが、これはある意味正しいようで実は完全に正確ではありません。
クレアチニンは筋肉から血液中に出る物質です。そして腎臓で濾過されて尿中に排泄されます。
つまり、筋肉の量が多ければ多いほど高くなる傾向にありますし、同じく腎臓の働きが低ければ低いほど高くなる傾向にあるわけです。つまりクレアチニンの数値は腎臓の働きだけではく、筋肉の量のかなり影響するということです。
Aさんのお父さんは非常に身長も高く、筋肉質の男性でした。小柄なAさんのお腹は、いただいた大きな腎臓で少し盛り上がっているほどです。
つまり、同じ働きを持つ腎臓であっても、小柄なA子さんと大柄で筋肉質のお父さんを比べると、クレアチニンの値は当然お父さんの方が高くなるわけです。
生体腎移植の場合、左右の腎臓の働きに差がある場合は、ドナー(腎提供者)に働きが良い方を残すという原則があります(10%以内の差であればほぼ同じとみなします)。
今回の場合、お父さんの左側の腎臓をAさんに提供しましたが、術前の検査ではお父さんの腎臓の働きは、左:右が47:53でした。10%以内ですのでほぼ同等とみなされるわけですが、実際はお父さんの体に残った腎臓の方がむしろ、わずかに働きが良いことになっています。
ですので、お父さんのクレアチニンがAさんより高い理由は、明らかにお父さんの方が筋肉が多いからであって、決して腎臓の働きがAさんより悪いわけではありません。
もちろん、大きな体格に見合うように大きな腎臓がもともと2つあったわけですから、残りが1つとなった以上は、その腎臓に無理がかからないように健康的な生活を心がけるのが大事であることは言うまでもありません。
Aさんが気に病んでいたことはあらためて説明することで解消され笑顔が戻りました。
どれだけ順調に経過していても、ご家族に腎臓をもらうということは、色々複雑な心境なんだなと思い知らされた一件でした。
この複雑な心境を乗り越えて、最終的には腎臓をもらった自分が元気になったところを見せてあげることが、一番の恩返しになるのかと思います。