腎移植マニュアル 5. 腎移植とは
腎炎、先天性尿路奇形症候群、多発性嚢胞腎、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症、肥満などがもとで「末期腎不全」になった方の生命を維持させるためには、腎臓が本来果たしていた役割である、血液中の老廃物や余分な水分などを体の外に出す何らかの治療が必要です。このような治療を「腎代替療法」とよび、「血液透析」、「腹膜透析」などの「透析療法」と「腎移植」があります。
「腎移植」は、働きが悪くなった自分自身の腎臓の代わりとして、誰かから「腎臓」をひとつ提供してもらい、手術で体内に移植する、という治療です。家族や親族から2つある「腎臓」のうち片方を提供していただく場合を「生体腎移植」、不幸にしてお亡くなりになった方から、善意で2つある「腎臓」を、2名の「腎不全」患者さんに提供していただく場合を「献腎移植」と言います。
いただく腎臓は1つですが、順調に働き始めると健康な人とほぼ同じように尿が出て、体に溜まった老廃物や余分な水分や塩分が排出されるようにます。 なぜなら、腎臓というのは予備能力が非常に高い臓器だからです。「透析療法」と比べると、食事の制限、生活の制限、精神的苦痛などさまざまな点で有利なことが多く、また同じ年齢で透析を始めた方と比べると寿命も長くなります。
ただし提供された腎臓は、いくら家族からもらった臓器だったとしても、もともとは自分の臓器ではないので、単に移植しただけでは、「拒絶反応」を起こして働きを失ってしまいます。どういうことかというと、人間の体は、細菌やウィルスなど自分にとって害のあるものを「よそ者」と認識して攻撃し排除する「免疫」という働きが備わっています。
「拒絶反応」とは、もともと自分の臓器でない「腎臓」が「腎移植」で体内に入ってきた時に、細菌やウィルスと同なじように「よそ物」と認識し攻撃してしまうことで起こります。「拒絶反応」を起こし治療をしなければ、移植した腎臓は尿が出なくなり、再度「腎不全」の状態となってしまいます。
「拒絶反応」を防ぐために必要な薬が「免疫抑制剤」です。「腎移植」をした後は、生涯にわたって「免疫抑制剤」を飲む必要があります。「免疫抑制剤」を飲むと、もちろん「免疫」の働きが少し弱まることで「拒絶反応」が起こらなくなるわけですが、「免疫」の働きが完全になくなってしまうわけではありません。「拒絶反応」は起こさずに、なおかつ細菌やウィルスが入ってきた時は「よそ物」と認識して排除することができるよう、微妙に程よい効き具合に調整することが重要です。
「腎移植」を受けると、今まで「透析療法」を受けていた方は、腎不全による体調不良がなくなり、時間的制限もなくなるため、生活の質は向上します。たとえば「血液透析」を受ける場合は、1週間に3回病院に通院して4時間の透析を受ける必要がありますが、腎移植を受けると1か月に1度の通院のみでよくなります。通学、通勤も自由に出来るようになりますし、運動もできます。海外旅行などにも行けますし、妊娠・出産も可能になります。
また「末期腎不全」になった段階で、「血液透析」、「腹膜透析」、「腎移植」のうち、「腎移植」を最初から選択することを「先行的腎移植」といいます。「血液透析」を行う機関が全くないため、動脈硬化がほとんどなく、生着率や生存率が良好であると言われています。
ただし「腎移植」を受けたからといって決して「腎不全」が治るわけではありません。一部の方は長年の経過の中で、色々な原因で移植腎の働きが低下してしまうことがあります。せっかくいただいた腎臓をできるだけ長持ちさせるため、「免疫抑制剤」をしっかりと決まった時間に飲み、腎移植後も生活習慣病の予防を行うことが重要です。そのため、通常は1ヶ月に1度は定期受診して採血検査や尿検査を行い、血圧や血糖値などもしっかり把握して管理を行う必要があります。