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間欠自己導尿

「神経因性膀胱」や「前立腺肥大症」が進行すると、自分の力で十分に尿が出せなくなります。これを「尿閉」と言い、「カテーテル」を尿の出口から入れて、溜まった尿を出すをする必要があります。この操作を「導尿」といいます。「間欠自己導尿」とは、自分自身で「導尿」を行う治療です。これにより、慢性的に尿閉状態の方でも、専用のカテーテルを携帯しておけば、1日に数回くらい尿を出す操作を自分で行うことで、普通に日常生活が送れるようになります。

 

 

尿閉(にょうへい)とは

主に脊髄損傷や、腰椎ヘルニア、脳卒中、糖尿病などの影響で膀胱が尿を押し出す力が弱くなる病気を、「神経因性膀胱」と言います。

また「前立腺肥大症」などでは、尿の通り道が狭くなり出にくくなります。いずれの病気も、症状が進むと自分自身で尿を出せなくなります。この状態を「尿閉」(にょうへい)といいます。

神経因性膀胱はこちら

前立腺肥大症はこちら

 

導尿とは

例えば、前立腺肥大症の患者さまなどは、もともと尿が出にくいことが多いです。そのような方が、尿が出にくくなる副作用がある薬(総合感冒薬や睡眠薬など)を、飲むとどうなるでしょうか。場合によっては、尿が出せなくなりとても苦しくて、救急車で病院に運ばれてきたりします。

こんな時は病院でカテーテルを尿の出口から入れて「導尿」をします。すると、多い人では500〜1000mlくらいの尿が膀胱に溜まっていたりします。

導尿が済むと「あー、楽になった」といって帰宅されますが、「風邪薬や睡眠薬などは、尿が出にくくなる副作用があるから飲まないでください」と注意しておけば、その後は自分で尿を出せるようになる方が多いです。

 

残尿と慢性尿閉

しかし、「神経因性膀胱」や「前立腺医大症」が進行すると、一度きりでは済まず、何度も「尿閉」になることがあります。また、尿意を感じる神経が鈍っていたりすると、自分自身では尿を出せてると思っても、やはり慢性的な「尿閉」だと判断されることがあります。これは医療機関を受診した際に「残尿測定」を行うことでわかります。

トイレで自分で出し切れるだけ尿を出し終わった後に、「超音波検査」で「膀胱」の部分を調べます。正常だと「膀胱」には尿が残っていないため何も映りません。ところが、膀胱にある尿が黒い影として映る場合は、自分では出し切ったつもりでも「残尿」があるということになります。

残尿のある膀胱

通常「残尿」は全くないのが正常です。ご高齢の方では、50ml以内程度認めることもありますが、この程度は許容範囲と考えます。ところが、残尿が100ml を常時超えるようだと、慢性的な「尿閉」と判断されるわけです。

このように「残尿」として、古い尿が常に膀胱に残る事で、細菌がついて尿路感染を起こしやすくなります。また、慢性的な「尿閉」が長期間続くことにより、最終的には「膀胱」だけではなく「腎臓」の働きも障害されて、「腎不全」に至ります。

腎不全についてはこちら

 

そこで、まずは尿を出す力を強めたり、尿の通り道を広げて、なんとか自分の力で尿が出せるようにする薬を飲みます。このような薬で「残尿」の量が減り、「尿検査」でも細菌感染の所見がなければ大丈夫です。

また、大きくなった前立腺のせいで尿の通り道が狭くなって起こる「前立腺肥大症」の場合は、薬が無効であれば手術による治療も可能です。ところが、尿を出す力が弱くなる「神経因性膀胱」の場合は手術治療は不可能です。また「前立腺肥大症」でも、手術治療を希望されない場合や、体力的に不可能な場合があります。そうなると、カテーテルで「導尿」をせざるをえません。

 

導尿の方法①:尿道カテーテル持続留置

「導尿」をには2つ方法があります。1つは、「尿道カテーテル」を入れたまま生活する方法です。尿道カテーテルは、バルンカテーテルとも呼ばれますが、その名の名前の通り、カテーテルの先端に、膀胱の中で含ませることができる小さな風船がついています。

膀胱の中に入れるまでは風船はしぼませておくのですが、入った後に水を注入して風船を膨らませると、その風船が膀胱の出口でつかえるため、抜けてしまうことを防げるようになっています。カテーテルを一旦入れてしまえば、おしっこをするためにトイレに行く必要もなくなります。
しかし、カテーテルが常に体に入れてあるというのは煩わしくもあります。場合によってはカテーテルとそれに繋がっている集尿袋をいつも持ち歩かないといけないことになります。

また、カテーテルはゴムやシリコンでできており、人間の体にとっては異物です。膀胱や尿道を含む尿の通り道は本来無菌です。しかし、異物であるカテーテルが入ることで、細菌感染を完全に防ぐことは難しくなります。

 

導尿の方法②:間欠自己導尿(CIC)

カテーテルで導尿する操作を自分でできるよう習得して、時間を決めて導尿をする「間欠自己導尿」という方法があります。一番最初にこの治療を提案すると、みなさま「自分で導尿なんて無理」とおっしゃいます。それでも、必要性や手順を説明し、実際にやってみると「意外に簡単だった」と意見が変わることがほとんどです。日本全国で約17000人が間欠自己導尿を行っていると言われています。

 

間欠自己導尿の実際

導尿の回数と1回尿量

多くの場合、1日の導尿回数は5〜6回程度です。自分自身である程度尿が出せている方では、3回くらいのこともあります。また比較的水分をたくさん摂取される方では、7〜8回必要となることもあります。

基本は朝起きた時、昼食後、夜寝る前の3回です。それ以外に、午前中に1回、昼食後と夜寝る前の間に2回ほど追加し、合計6回となることが多いように思います。のちほど説明する「排尿日誌」の内容により、回数を調整します。

1度に導尿で出す尿の量は300ml程度が理想で、多くても500mlは超えないようにします。たくさん尿が溜まっているということは、それだけ古い尿が溜まっていたことになり、導尿で膀胱内に混入した細菌が増えやすくなります。また膀胱の粘膜が伸び切ると細菌が感染しやすくなるとも言ます。

もしも1回の導尿量が500mlを超えるような場合、導尿回数を増やして1回の量を減らします。注意することとして、水分を摂取しすぎないようにするということです。1日尿量は1500ml程度が理想です。すると1回の導尿が300mlの場合は導尿が5回で済みます。ところが、水分摂取の多い方だと、1日尿量が3000mlを超えることもあります。その場合、1日の導尿回数が5回だと、1回の導尿量が600mlで多すぎますし、適切な1回導尿量300mlを保つようにすると、1日10回も導尿しないといけないことになりとても大変です。(ただし導尿回数が多すぎてダメということはないので、1回の量が多すぎるよりはましです)

 

導尿の方法

基本的に自分自身の素手でカテーテルを尿道に入れて尿を出し、終わったら抜くという作業です。そのうえで、清潔操作が必要であるということと、尿道を傷つけないようにするという、2つの注意点があります。以下に手順を示します。

    1. 両手を石鹸でよく洗います
    2. 尿道の出口を消毒綿で拭きます
    3.  カテーテルを尿の出口へ入れます
    4.  尿が出たら、数cm押し込みます
    5.  出なくなったら下腹部を押します
    6.  1cmずつカテーテルを抜きます
    7.  また尿が出ればそこで止めます
    8.  尿が出なくなれば完全に抜きます。

 

以下、導尿をする際のコツと注意点を箇条書きにします。

・男性では15〜20cmくらい入れると尿が出始めます。女性では4〜5注意事項程度です。

・必ず自分で排尿を試みて、出た尿の量を測定してから導尿します。導尿で出た尿の量も測定します。毎日でなくてもよいので、①時間、②自尿の量、③導尿の量を排尿日誌として記録して、診察時に持参してください。記録された内容をもとに導尿回数や時間の調整をすることがあります。

・女性では、尿道の出口の位置が、ご自身ではわかりにくいものです。慣れるまでは鏡を使うようにします。慣れてしまえば鏡は不要となることがほとんどです。

・男性では、尿道の出口はわかりやすいのですが、尿道が長いため、カテーテルが入りにくかったり傷がつきやすかったりします。亀頭のしたを2〜3本の指で挟み込み、グッと思い切り陰茎を伸ばしすことで、尿道が真っ直ぐになりカテーテルが入りやすくなります。

・手を洗ったり、消毒したりして、清潔操作を行いますが、完全には無菌になりません。そこまで完璧に清潔操作をすることに拘らなくても大丈夫です。尿路感染を起こさないようにするためには、むしろ尿を溜めすぎないことと、最後まで尿を出し切ることが大事です。特に、尿が出なくなった後にすぐにカテーテルを抜かず、1cm刻みでゆっくり抜いてきて、また尿が出始めたらそこで下腹部を押すなどして膀胱の底に少しでも残った尿が内容にすることが重要です。

 

カテーテルの種類

間欠自己導尿に使用されるカテーテルは2種類あります。1つは、消毒液の入った筒にしまっておいて、約1ヶ月間使用する「再利用型カテーテル」で、「セルフカテ」などと呼ばれます。こう1つは、個装されておりその都度使い捨ての「使い捨てカテーテル」で「ネラトン」などと呼ばれます。

「セルフカテーテル」には、数種類の太さと男女別の長さがあります。導尿しない時は、消毒潤滑液を満たした容器内にカテーテルを入れておきます。またカテーテルを使った後は、もう一度容器のなかにしまって蓋を閉めておきます。容器内の消毒潤滑液は1〜3日に1度入れ替えます消毒液潤滑剤としては、ベンザルコニウム塩化物添加グリセリン液(0.025%)などを用います。容器内消毒液は、毎日~3日ごとに交換します。
「ディスポカテーテル」には、挿入時に先端へ潤滑ゼリーをつけて使用する「ネラトンカテーテル」と、個装されたカテーテル自体が液体に浸されていて浸水コーティングがされている「浸水コーティングカテーテル」があります。「浸水コーティングカテーテル」が使用できる方は、脊髄障害 、二分脊椎 、中枢神経を原因とする神経因性膀胱の方に限られます。
また、特殊なタイプとして「間欠式ナイトバルーンカテーテル」があります。「ナイトバルン」とも呼ばれます。これは特に夜間の尿量が多く、何度も起きて導尿をしないといけない方などが使用します。夜間のみ「ナイトバルン」を自分自身で挿入して風船を自分で膨らませて、寝ている間はカテーテルを入れっぱなしにしておくものです。

 

間欠自己導尿の注意点

①導尿困難

特に男性では尿道が長いため、カテーテルが途中で引っかかったりすることがあります。一番多いのは陰茎の進展が不十分で、途中で尿道が曲がっているためにカテーテルが当たってしまうことです。このような場合は、一旦カテーテルを少し抜いてまた入れ直すと入ることが多いです。

ただし、繰り返す導尿で尿道に小さな傷がづくことを繰り返し、尿道が狭くなったりすることもあります。この場合、無理をしてカテーテルを入れようとすると「偽尿道」といって、本来の尿道の通り道とは別の穴があいてしまうことがあります。あまり無理をせずかかりつけ医に相談しましょう。

 

②出血

カテーテルが尿道や膀胱の粘膜に擦れて、出血することがあります。よほど真っ赤出血が続くことがなければやがて自然に止まることがほとんどですので様子を見ましょう。ただし、膀胱で出血をして、血の塊を作ってしまうと、これが尿道につまることがあります。そのような時もかかりつけ医に相談しましょう。

 

③膀胱炎

カテーテルは異物ですので、消毒液に浸していたり清潔操作を行っていても雑菌が多少は付着しています。導尿の際に膀胱へ雑菌が混入しますが、しっかりと最後の1滴までしっかり導尿し、次回の導尿でも尿を溜めすぎなければ、通常は膀胱炎はそこまで頻繁には起こりません。

ただし、いくら気をつけていても時々膀胱炎が起こったりすることがあります。また、慢性的に尿に雑菌がついてしまっている方もいます。ある程度仕方のないことですが、このような方は膀胱炎を起こしやすいです。尿の混濁、臭い、下腹部に違和感を感じるような症状が出た場合は、抗菌薬の内服で加療します。

 

泌尿器科専門医 石村武志

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