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腎移植Q&A|移植腎がズキンと痛みます

これは本当によく聞かれることです。私のなかでの腎移植あるあるベスト3には絶対に入っていると思っています。

 

「ズキン」と痛むという人もいれば、「チクチク」と痛むという方もいます。

 

どちらにしても、ご安心ください。誤解を恐れずに敢えて言い切ってしまうと、心配ありません。というか、私の経験上、このようなことを言われた方で、何か深刻なことが起こっていた方は、少なくとも1人もいらっしゃいません。

 

腎移植のことを書いた本やサイトなどには「拒絶反応を起こすと、腎臓が腫れて痛みが出ます」などと書いてありますので心配になるのかと思います。

 

しかし今の時代、そんなに激しい拒絶反応は少なくとも免疫抑制剤をしっかり飲んでいる限りはほとんどありません。

 

 

といっても、手術が終わり入院している間は、人によっては激しい拒絶反応が起こったせいで、移植した腎臓の部分が痛くなることはありえます。

 

ただしその場合には、同時に「クレアチニンが上がる」「むくみが出る」「尿量が減る」など他の症状も出ているものです。

 

 

もともとそのような激しい拒絶反応が起こかもしれない人は、手術前からある程度予想がつきます。

 

我々もかなり注意しているので、痛みよりも前に他の症状で拒絶反応の診断がつくことがほとんどです。

 

いっぽう、無事退院して、その後にご自宅で1人でいると、腎臓に意識が集中します。

 

そんなふとした時、腎臓のあたりが何となくチクチクしたり、ズキンと痛くなったりすることがあるかもしれません。

 

 

それもそのはずです。皆さんのお腹に残っている創はかなり大きいです。

しかも安全に腎臓を移植するために、手術中はその創部を専用の器械を使って、かなりガバっと広げているのです。

 

手術が終わったあとの見た目には1本の線ですが、手術中のお腹のひらき具合をもし見たら、きっと皆さん驚くと思います。

 

そのくらい大きく開いた部分がやがて治る過程で、なにかの加減で一瞬「ズキッ」と痛んだり、「チクチク」と痛んだりしても不思議はありません。

 

痛みというのは五感のなかでも最も不安をあおる感覚です。何も説明を聞いていなければ心配になることでしょう。皆さんが余計な心配をしなくていいようにもう一度言っておきます。ほとんどの場合はこのような痛みは心配はありません。

 

ただし、もしも万が一、何かの勘違いや思い込みが元で「自分自身で免疫抑制剤を飲むのをやめてしまった」場合、痛みを伴うような激しい拒絶反応が起こることもありえます。

 

 

この場合も「むくみが出る」「尿量が減る」「体重が増え続ける」などのほかの症状が出ているものです。

 

では、「時々ピリピリっとした痛みがキズのところに出る」とか「キズの奥のほうが好きんと痛むことがある」原因はなんでしょうか?

 

腎移植のキズを表面から見れば皮膚の部分しか見えません。しかし、その内部では、「筋肉」や「筋膜」を縫い合わせているのです。

 

 

ご自身のお腹の創を見たらわかるように、上の図の「外腹斜筋」、「内腹斜筋」、「腹横筋」を横切っています。

 

これらの「筋肉」は縫い方が不十分だとその部分が裂けてしまい、ヘルニア(脱腸)などの原因となってしまいます。そこでタコ糸くらいの太さの、太い糸で非常に強く結びます。

 

 

ちなみに太い糸ではありますが、吸収糸という特殊な糸でやがて溶けてなくなります。

 

そのせいで、手術をしてから1年くらいは傷の部分が盛り上がったようになったり、段差ができたようになってしまうことがあります。このくらい強く「筋肉」を縫い合わせているので、おそらくこのせいもあって痛みが出るんだと思います。

 

また腎移植の傷は下腹部を斜めに横切るため、どうしても皮膚の下に走行する細い神経を切らざるを得ません。

 

そのせいで、手術の後はしばらく傷の周囲の皮膚の感覚が痺れたようになって触ってもわからなくなったりします。同じように神経の影響で、ピリッとした痛みが出るのかもしれません。

 

 

いずれにしても、腎臓は移植した時点で神経が切れています。理屈では腎臓自体が痛みを感じることはないはずです。

 

診察の際に、「移植した腎臓が痛い」とおっしゃる方がいたら、念のために腎機能や炎症反応を確認します。

 

そして「心配ありません」と伝えてあげるようにしています。

 

 

泌尿器科専門医、腎移植認定医 石村武志

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