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腎移植Q&A|歯科に行く予定ですが注意事項は?

腎移植患者さまが、歯科を受診する場合は注意することが3つあります。これらの注意点のうち、歯科の先生にとっても当然の常識と、腎移植を専門にしている医療者でないとなかなかわからないことがあります。歯科を受診する可能性のある方は、主治医にお声がけください。注意事項をご説明します。① 化膿止めの抗菌薬の種類と量、② 腎機能障害作用のある鎮痛薬、③ 骨粗鬆症の薬です。

 

腎移植患者さまと歯科

腎移植を受ける方には、必ず腎移植前に歯科を受診し、必要な場合は治療してもらうようにしています。というのも、腎移植後に免疫抑制剤を内服することで抵抗力が落ちた際に、重症の歯周病などがあると、ひどい場合にはその原因菌が全身の血液にまわって菌血症という状態になることもあり得るからです。

とはいえ、腎移植前に治療が終わっていても、腎移植後に歯が痛くなったり、親知らずが腫れてきたりすることは割とよくあります。印象として普通の方よりも歯科を受診する機会が多い気がします。おそらく免疫抑制剤で口の中が荒れやすくなっていたりすることも影響しているのではないかと思います。

 

腎移植外来というのは、よろずやのようなものです。腎移植の主治医ということで、全身のあらゆる不調の相談をされる方が多く、時にはあまり専門でないことを聞かれて、気の利いた返答ができず困ることもあったりします。でも、ためらわずなんでも聞いてくださった方がいいのです。専門ではないことについては全てを解決できるわけではありません。しかし、腎移植患者さまがなんらかの治療を受ける場合には、思ってもないことで制限を受けたり、注意するべき点があったりするからです。

さて、歯科を受診する場合は注意することが3つあります。これらの注意点のうち、歯科の先生にとっても当然の常識と、腎移植を専門にしている医療者でないとなかなかわからないことがあります。歯科を受診する可能性のある方は、じっくりと読んで注意しておいていただきたいのですが、なかなかご自身で覚えておくのは難しいと思います。そこで歯科を受診される際には、主治医にお声がけください。注意事項をご説明します。

 

① 化膿止めの抗菌薬の種類と量

抜歯や歯周病などで飲み薬の抗菌薬を処方されることがあるかもしれません。抗菌薬には色々な種類がありますが、その中にタクロリムス(プログラフ、グラセプター)やシクロスポリン(ネオーラル、サンディミュン)と飲み合わせの悪いものがあります。「マクロライド系」と呼ばれる系統の抗菌薬で、具体的な薬剤名(商品名)としては、「アジスロマイシン」(ジスロマック)、「クラリスロマイシン」(クラリス)、「エリスロマイシン」(エリスロシン)という薬です。

これらの薬をタクロリムス、シクロスポリンと同時に服用すると、タクロリムス、シクロスポリンの効き目が強くなりすぎて、腎機能障害を含むさまざまな副作用が強く出ることがあるからです。

また、腎移植後に順調に経過している方であっても、腎臓は1つです。よって、その機能は2つある一般の方と比べるとやや低めのことが多いです。抗菌薬のなかには腎機能に応じて投与量を減らす必要のある薬もあります。長期間内服が必要な場合は、特に注意が必要です。

 

② 腎機能障害作用のある鎮痛薬

一般的に「 NSAIDs」(エヌセイズと読みます)と呼ばれる系統の鎮痛剤で、有名な薬剤名としては、「ロキソニン」、「ボルタレン」などがあります。1度や2度飲んでしまったからといって腎臓の機能がすぐにダメになるわけでは決してありませんが、これらの薬は移植腎機能を障害する可能性があります。ふだん腎機能のことを気にしているのにあえてこれらの薬を選ぶことはないかと思っています。

 

③ 骨粗鬆症の薬

腎移植後は、さまざまな原因で骨密度が下がりやすい状態にあります。そのため、骨密度を維持するための薬を飲んでいる方は多いです。骨粗鬆症のくすりには、非常にたくさんの種類があります。

その中に「ビスホスホネート」という、週に1回または月に1回飲む薬があります。具体的な薬の名前は、「ボナロン」(アレンドロン酸)、「ボノテオ」(ミノドロン酸)、「ベネット」(リセドロン酸)などです。また他にも「プラリア」(デノスマブ)という半年に1度皮下注射で投与する薬があります。

これらの薬は、骨の成分が溶けては新しく作られる、という生まれ変わりのサイクルのうち、骨が溶けるのを減らす作用があります。これにより骨密度は上がり骨は丈夫にあるのですが、本来骨が持つ生まれ変わりのサイクルは少し鈍くなるとも言えます。よってこれらの薬を使っている方が、抜歯などの歯科治療を行うと、歯の根っこが埋まっていた骨が正常に回復せず顎の骨が腐ったような状態になってしまう「顎骨壊死」(がっこつえし)という病気を引き起こすことがあります。

 

日本移植学会認定医、日本臨床腎移植学会認定医 石村武志

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