神経因性膀胱
神経因性膀胱は、脳卒中、脊髄まひ、椎間板ヘルニア、糖尿病、子宮や直腸の手術、など脳や神経の病気が原因で、膀胱がうまく働かなくなる病気です。尿をためられなくなったり(ためる前に出てしまう)、逆に尿がたまってきても尿意を感じなかったり、たくさんたまっているのに尿を出せなくなったります。薬による治療や、自己導尿が必要になったりします。
目次
神経因性膀胱とは
膀胱は下腹部の真ん中にあり、尿を溜めておく袋状の臓器で、通常200〜400m程度の尿を溜めることができます。
女性の尿路
男性の尿路
膀胱に尿がたまってくると、そのことが神経を通って脳に伝えられて「おしっこに行きたい」という尿意を感じます。トイレに行って「さあ、おしっこを出そう」と頭で考えると、脳から神経を通って「尿を出しなさい」という命令が膀胱に伝わります。
すると膀胱の壁にある「排尿筋」という筋肉が縮んでポンプのように尿を押し出そうとすると同時に、膀胱の出口を閉めていた「括約筋」というバルブのような筋肉が緩んで出口が開くことで、尿道を通って尿が出ます。排尿の後には膀胱は空っぽになります。
排尿に関わる脳や神経のどこかに異常があると、尿がたまっていてもたまっていることがわからなかったり、尿をためられなくなったり(ためる前に出てしまう)、たくさんたまっていても尿を出せなくなったります。この状態を「神経因性膀胱」と言います。
「神経因性膀胱」の原因となるような、脳・神経の病気としては、脳梗塞、脳出血、アルツハイマー病、パーキンソン病、椎間板ヘルニア、腰椎圧迫骨折、脊椎管狭窄症、脊髄まひ、直腸癌手術、子宮癌手術、糖尿病などがあります。
また、膀胱の筋肉をゆるめてしまう副作用を持つ薬は比較的多く、そのような薬の影響で尿が出せなくなることも、広い意味で「神経因性膀胱」と言えます。
なかでも、尿がたまっている感覚がわからなくなっったり、尿を出す力が極端に低下して、膀胱にたくさん尿がたまっているのに出せなくなっている状態を尿閉といいます。
そうなると何らかの方法で尿を体の外に出す必要があります。その1つが、「間欠自己導尿」で、これは時間を決めてカテーテルを尿道に入れて尿を出し、全部で終わったら管を抜く、という作業を自分自身で行う方法です。
手が不自由でどうしても無理な場合や、膀胱の機能が悪くなりすぎて尿をためることさえできなくなっている時は、尿道カテーテルを入れて袋につないだまま生活することもあります。
神経因性膀胱の症状
原因となる脳や神経の病気によって症状は違いますが、尿がたまっていることがわからなったり、尿をためられなくなりためる前に出てしまったり、たくさんたまっていても尿を出せなくなったりします。
例えば脳梗塞の初期であれば、尿がたまっていても尿意を感じないうえに、たくさんたまっていても尿を出せない状態となります。この状態を「尿閉」といいます。
一方、事故で怪我をして起こるような脊髄損まひでは、少しでも尿がたまりかけると膀胱が痙攣を起こすように縮んで尿が勝手に出てしまったりすることがあります。
つまり「神経因性膀胱」では、原因によってあらゆる尿の症状が出る可能性があるということです。それらには、突然トイレに行きたくなる「尿意切迫感」、夜中に尿意で目が覚めて何度もトイレに行く「夜間頻尿」、日中、何度もトイレに行く、一度言ってもまたすぐにおきたくなる「頻尿」、急に尿意をもよおして、トイレにいくまで我慢できずに尿が漏れてしまう「切迫性尿失禁」などがあります。
尿が出るまでに時間がかかる「排尿困難」、尿の勢いが弱くなってチョロチョロとしか出ない「尿勢低下」、尿のキレが悪くなり全部出したつもりでもまだ出そうな感じがする「残尿感」、お腹に力を入れないと尿が出ないかったり尿が途切れる「尿線途絶」といった様々な排尿に関する症状があります。
一般的に、軽い脳梗塞や脳出血パーキンソン病やアルツハイマーなど、脳の病気が原因の「神経因性膀胱」は、頻尿や尿失禁が主に出ます。いっぽうで、子宮や直腸の手術、糖尿病による神経障害、腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症などが原因の「神経因性膀胱」は、尿意が鈍ったり出にくくなったりします。また。重症の脳出血、脳梗塞、交通事故などによる脊髄損傷の場合、尿が全く出なくなることが多いです。
神経因性膀胱の検査、診断
「神経因性膀胱」の原因となるような病気がないか、過去に直腸や子宮の手術を受けたことがないか、膀胱をゆるめるような副作用のある薬を飲んでいないか、を問診でお聞きします。
風邪薬、睡眠薬、安定剤、不整脈の薬、などが膀胱を緩める可能性があります。また身体を診察して麻痺や知覚障害などがないかどうかを調べます。
尿閉の原因になり得る薬剤
- 睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬
- 抗アレルギー薬、総合感冒薬、喘息治療薬
- 抗不整脈薬
- 麻薬性鎮痛薬
- 過活動膀胱治療薬
次に検査としては、まず検尿を調べます。たまっている尿が出せなくなり古い尿が膀胱に残ると、細菌が感染しやすくなり、「膀胱炎」や「腎盂腎炎」をおこすことがあるためです。
また、膀胱がしっかり尿を出せているかどうかを確認するために、「尿流量測定」や「超音波(エコー)検査」を行います。
さらに専門的には、膀胱の縮む力や出口を占めておく力などを調べる「ウロダイナミクス検査」があります。
神経因性膀胱の治療
尿をためられなくなってためる前に出てしまうタイプの時は、膀胱を少し緩めてためられるようにするような薬を飲みます。
また、たくさんたまっていても尿を出せなくなるタイプの時は、膀胱が尿を押し出す力を強めたり、膀胱の出口を緩めたりして、尿を出すのを助ける薬を飲みます。
尿がたまっている感覚がわからなくなっている場合や、尿を出すのを助ける薬を飲んでも出せない場合は、なんらかの方法で尿を体の外に出してあげないと、古い尿が常に膀胱に残る事で細菌がついて尿路感染を起こし熱が出たり、最終的には腎不全を引き起こします。
そこで、「尿道留置カテーテル」(バルンカテーテルと呼ばれる事が多いです)という管を入れたまま生活するか、あるいは時間を決めてカテーテルを尿道に入れて尿を出し、全部で終わったら管を抜く、という作業を自分自身でする「間欠自己導尿」という方法があります。
尿道留置カテーテルについてはこちら
神経因性膀胱の予防、注意点
原因となる病気がある以上、神経因性膀胱自体の予防は難しいと言えます。そこで重要となるのが、管理をしっかりするということです。上記のように、薬剤で通常の排尿ができるようになれば理想です。ただし、残念ながら通常の排尿ができるようにならない方もいらっしゃいます。
特に、尿が出なくなり「尿閉」となった方の管理は重要ですし、頻度の高いものです。高齢化により脳梗塞や脳出血などを患った後に施設に入所されている方の神経因性膀胱が増えています。
「腎不全」や「尿路感染」を避けるためには、「間欠自己導尿」が最善であり、次善の策が「尿道留置カテーテル」と言えます。いずれにしてもご本人はなかなか受け入れがたいことかと思います。また認知症や麻痺などの関係から「間欠自己導尿」がなかなか難しい方もいらっしゃるのが現実です。
唯一防ぎ得る神経因性膀胱として、「薬剤性神経因性膀胱」があります。睡眠薬や抗不安薬などを複数内服されている方が尿閉になっていることに遭遇します。
もともと前立腺肥大症などがあり普段から排尿困難を感じている方が、花粉症で抗アレルギー薬を内服したり、風邪で総合感冒薬を内服したりすると、比較的かんたんに「尿閉」になります。
また、頻尿や尿意切迫などの症状がある方で、同時に排尿困難もある方は要注意です。過活動膀胱としてその治療薬を内服することで、膀胱が緩んで尿閉になります。
泌尿器科医は必ず、過活動膀胱治療薬を処方する場合は「残尿エコー」をしますもしも頻尿の治療薬を飲み始めて、「少し尿が出にくい」と思った方がいれば、要注意です。できるだけ早めに処方を受けた病院かお近くの泌尿器科を受診してください。