精巣捻転
小中学生くらいの男の子が、「急にキンタマが痛くなった」という場合、精巣捻転(せいそうねんてん)の可能性があります。精巣 が陰嚢の中で回転して、精索がねじれてしまう病気です。精巣に血が流れなくなるため、手術でねじれをほどいてあげないと、精巣が壊死してしまうことがあります。迷わず早めに泌尿器科を受診しましょう。
目次
精巣捻転とは
「寝てる時にキンタマが痛くなって目が覚めた」 小中学生くらいの男の子がこう言っていたら、すぐに泌尿器科に行きましょう。キンタマがねじれて腐ってしまうかもしれません。。。
少し脅かし過ぎかもしれませんが、そのくらいでちょうどよいのです。どういうことか説明しましょう。
まずは用語の説明です。”キンタマ”は、正式な医学名では「精巣」と言います。「精巣」は、「精子」を作ったり「男性ホルモン」を作るなどの働きがあり、男性にとっては非常に大事な臓器です。
「精巣」は「陰嚢」の中に入っています。「陰嚢」とは、わかりやすい言葉でいうと”玉ぶくろ”です。「陰嚢」の中には 「精巣」 以外にも「精巣上体」という「精巣」のおまけのような組織や、「精管(せいかん)」という管などが入っています。
「精巣上体」も「精管」も「精巣」で作られた「精子」の通り道です。また「精管」と「血管」が含まれた「束」のような組織を「精索」と言います。「精索」は「精巣」の「根っこ」のようなイメージでお腹の中の方にのびています。
「精巣」は「精索」でお腹の中とつながっていますが、「陰嚢」の中である程度は動きます。しかし、「精巣」は「陰嚢」の内側に一部分くっついているため、普通は半回転以上は回りません。
ところが、生まれつき「陰嚢」へのくっつきが少ない人がいます。すると「精巣」が「陰嚢」の中で回転して「精索」がねじれてしまうわけです。これが 「精巣捻転」(せいそうねんてん)です。
この病気は、思春期に「精巣」が発育して大きくなる頃に起こりやすいですが、生後間もない新生児期や、まれに若い成人男性にも発症します。
「精索」がねじれると、「精索」の中にある血管もねじれます。「精巣」へ血液が行き渡らなくなるので、突然激しい痛みが出て、ひどい場合は吐き気が出たりもします。
また多くの場合、「陰嚢」の中で「精巣」が上の方に引っ張られたように上がった状態になります。
「精巣」に血液が通っていないわけですので、そのまま放置して時間がたつと、やがて「精巣」は「壊死」を起こして腐ってしまいます。すぐに泌尿器科に行きましょうという理由はこれです。
両手を使って左右の「精巣」を外側に回転させるとねじれが戻ることもあります。戻らない場合は、ねじれをほどく手術をすることになります。
「精巣捻転」(せいそうねんてん)が発症してから12時間以内にねじれをほどくことができれば大丈夫です。ただし12時間以上経過していると、ねじれをほどいてもすでに「精巣」は壊死してしまていることが多く、残念ながらその「精巣」は摘出することになります。
精巣捻転の症状
典型的な症状としては、急に「精巣」つまり”キンタマ”が痛くなることです。「精巣」は「精索」でお腹の中とつながっているため、痛みはお腹の方まで伝わり吐き気が出ることもあります。
”キンタマ”にボールがぶつかった時など、お腹の奥にズーンと響くような痛みが出たことは、男の人なら一度くらいは経験があると思いますが、あの痛みです。
また「精巣捻転」を起こすと、”キンタマ”はだいたい上の方に引っ張られるように上がってしまい、横向きになっていることが多いです。夜間、寝ている時などに起こることが多く、右側より左側に起こりやすいと言われています。
「精巣捻転」は自然に治ることもあります。ねじれの程度が軽かったため、ふとした拍子にねじれが自然にほどけるわけです。
自然に治ればとりあえず治療の必要はないのですが、「精巣捻転」が起こる原因は、上で説明しているように生まれつき「精巣」が「陰嚢」へのくっついている部分が少ないことです。よって、一度ねじれかけた人はまたねじれる可能性がありますので、注意が必要です。
何度か”キンタマ”が痛くなったが自然に治った、という経験のある人が、本格的に痛くなった場合は、「精巣捻転」の可能性がかなり高いので、泌尿器科の緊急手術のできる病院へ直接受診した方が良いかもしれません。
精巣捻転の診断
まずは「問診」で話を聞いて、年齢、経過、痛がり方などから「精巣捻転」を疑います。
ついで診察をして、見た目や触った感じを確かめると同時に「超音波検査」(エコー)を行います。「超音波検査」では、「精巣」や「精索」に血液が流れているかどうかがわかります。
同じように”キンタマ”が痛くなり腫れる病気に「急性精巣上体炎」があります。痛みの感じや腫れの具合、触った感じなどが微妙に違うこともありますが、「検尿」で区別がつくことがあります。
「急性精巣上体炎」は細菌感染で起こる病気のため「検尿」で尿を顕微鏡で調べると濁っていたり細菌を認めたりします。腫れがひどい場合などは非常に区別がしにくいこともあります。
「超音波検査」で血液が流れていれば、まず「精巣捻転」の可能性は低いと言えますが、痛みや腫れが強いため十分に確認できなかったりすることも珍しくありません。
また同じような症状が出る病気に「精巣垂捻転」や「精巣上体垂捻転」がありますが、こちらも「精巣捻転」と区別しにくいことがよくあります。
精巣捻転の治療
「精巣捻転」と診断した場合は、まずは両手を使って左右の「精巣」を外側に回転させてねじれが解けないかを試します。
しかしこれでねじれがほどけることはあまりなく、ほどけない場合は緊急手術をします。「精索」がねじれて「精巣」への血流が遮断されてから6時間以内に手術でねじれをほどいた場合、90%以上の確率で「精巣」は助かるといわれています。
逆に12時間以上経過すると半分以上の確率で精巣が「壊死」を起こしてしまうと言われています。もしも壊死していた場合は、「精巣」を摘出しないといけません。
なので、もしも「精巣捻転」を疑うが、確信できない場合でも手術に踏み切ることがあります。手術では、ねじれをほどいた後に再度ねじれることがないよう、「精巣」を「陰嚢」の裏側に固定します。この時、予防的に反対側の「精巣」も「陰嚢」の裏側に固定することが多いです。
精巣捻転の予防、注意点
「精巣捻転」はタイミングを逃すと片方の精巣を失う可能性のある病気で「不妊症」の原因にもなる可能性があります。しかし、思春期の多感な時期に起こりやすい病気のためつい恥ずかしさなどから受診が遅れてしまうことがあります。
もしも「精巣捻転」と診断された場合は緊急手術をすることになるため、「急にキンタマ”が痛くなった」場合には、時間のロスを少なくするため、泌尿器科の緊急手術のできる病院へ直接受診した方が良いかもしれません。