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膀胱がん

膀胱は、下腹部にある尿を溜めておく袋状の臓器です。膀胱の内側を覆っている粘膜から出来るがんが、膀胱がんです。痛みを伴わない血尿で見つかることが多いです。初期のうちは内視鏡手術で治りますが、進行すると膀胱全摘や抗がん剤治療が必要になります。

 

膀胱がんとは

尿は「腎臓」で作られます。「腎臓」は、左右の腰のあたりにある握りこぶしくらいの大きさの臓器です。「腎臓」で作られた尿は、「尿管」という細い管を通ってお腹の下まで流れていき、「膀胱」に貯められます。「膀胱」に尿がたまると、「おしっこがしたい」と感じてトイレに行き、「尿道」を通って尿が体の外に出されます。

 

「膀胱」は下腹部の真ん中にあります。膀胱の壁のうち、内側は尿路上皮という「粘膜」で覆われており、その外側の壁は「筋層」といい、排尿筋という筋肉で出来ています。

 

膀胱の壁は、尿がたまってくると風船が膨らむように伸びて薄くなります。通常200〜400ml程度の尿をためることができます。排尿するときには、「尿道」を通って尿が出ます。

 

この「膀胱」の内側を覆っている粘膜に出来るのが「膀胱がん」です。検診の尿潜血がきっかけとなり見つかったり、尿に血が混じって赤くなる「血尿」がきっかけで見つかることが多いです。

 

しかし、ほとんどの場合は痛みなどの症状はありません。50歳以上の年齢でこのような症状が出た場合、「膀胱癌」の可能性がありますので、できるだけ早めに泌尿器科を受診しましょう。

 

日本では毎年約2万人が「膀胱がん」になっています。女性より男性に約3倍多く、男性では全ての癌のうち「膀胱がん」が10番目に多いとされています。

 

また喫煙者は「膀胱がん」になりやすいとも言われているほか、芳香族の有機溶媒(ベンゼン、トルエンなど)を扱うことのある職業についている方も「膀胱がん」になりやすいと言われています。そのような有機溶媒を取り扱う仕事をされている方は、通常職場で特殊健康診断を受られていると思います。。

 

「膀胱がん」は、初期のうちは、内視鏡で「膀胱癌」の部分だけを削り取る手術や、BCGという薬剤を膀胱に注入したりすることで治ります。ただし「膀胱がん」のやっかいなところは、一度内視鏡で完全に取り切れても、また膀胱の中で別の場所に再発することです。

 

進行して「膀胱がん」の「根っこ」の部分が、さらに深い排尿筋がある「筋層」まで達すると、内視鏡で「膀胱がん」の部分だけを削り取ることが出来なくなります。こうなると、根治するためには「膀胱」自体を手術を摘出する「膀胱全摘」という手術をうける必要があります。

 

さらに進行すると、「膀胱がん」はもっと「根っこ」が深くなり、周囲の「尿管」や「直腸」、「骨盤壁」に浸潤します。また、「膀胱がん」のがん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って全身に運ばれ、それぞれの臓器で大きくなり、「リンパ節転移」「肺転移」「肝転移」「骨転移」「脳転移」となります。

 

周囲の臓器に浸潤したり、転移した膀胱がんは、手術で全てを取り除くことができなくなるため、「抗がん剤」や「免疫チェックポイント阻害薬」など、全身に効く薬や点滴で治療します。

 

膀胱がんの症状

早期の「膀胱がん」は、痛みのない血尿で見つかることが多く、健康診断や人間ドックなどの検尿で尿潜血を言われたことがきっかけで見つかることがあります。

 

見た目に明らかに真っ赤な血尿が出た場合は、検診で引っ掛かる程度の血尿に比べると「膀胱がん」である可能性も高くなるので、すぐに泌尿器科を受診しましょう。

 

「膀胱がん」は血尿以外の症状で見つかることもあります。たとえば、粘膜の浅いところを地を這うように広範囲に広がり、比較的早期に転移をしやすい「上皮内がん」という種類の膀胱がんがあります。この場合、血尿に加えて排尿中や排尿後に尿道や下腹部が痛ような「排尿時痛」、何度も尿に行きたくなる「頻尿」、排尿したあともまだ出そうな感じがする「残尿感」など、「膀胱炎」によく似た症状が出ることもあります。

 

膀胱炎と思い抗菌薬で治療してもなかなか治らない場合には、膀胱の「上皮内がん」の可能性もあり専門の泌尿器科を受診した方がよいでしょう。

 

膀胱がんは進行すると徐々に癌の「根っこ」が深くなり膀胱の壁の深いところにある筋肉まで達して、さらにその外側にある脂肪の組織に浸潤します。やがてがん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って全身に広がり、リンパ節や肺、肝臓、骨などに転移します。こうなると進行した膀胱がんや転移巣の影響で、排尿時の痛みや足のむくみなどが出たりします。

 

膀胱がんの検査、診断

膀胱がんの診断のためには、「尿検査」、「尿細胞診」、「膀胱鏡」、「レントゲン」、「腹部超音波検査」、「胸部・腹部CT」、「骨盤部MRI」などを適宜行います。

 

目でみてわかるような血尿で受診された方でも、まずは「尿検査」を行い、本当に「血尿」が出ているかどうかを調べます。数日前に血尿が出たが今はおさまった、という方でも、「膀胱がん」の方では「尿検査」をして顕微鏡で確認すると、目で見てわからない程度の血尿が実は続いていることが多いです。

 

実際に血尿があり「膀胱がん」が疑わしい場合は、まず「腹部超音波」(エコー)と「尿細胞診」検査をしてみます。「エコー」は全く痛みのない検査ですし、診察時にすぐ行えるため、まずはこの検査で膀胱の中に「できもの」らしきものがないかを確認します。ただし非常に小さな「できもの」は「エコー」では捉えきれないほか、仮に血の塊などが「膀胱」の中にあった場合でも「できもの」のように見えてしまいます。

 

「尿細胞診」は「尿検査」で提出してもらった尿の一部を検査に回すことができるため、これも患者さまの負担の少ない検査です。ただし「尿細胞診」で「陽性」つまり悪性という結果がでると「膀胱がん」の可能性は非常に高いのですが「陰性」つまり悪性ではなかったという結果が出ても、必ずしも「膀胱がん」が絶対ないとは言い切れません。

 

「膀胱がん」があるかないかをはっきり判断するためには「膀胱鏡」をします。「膀胱鏡」は、尿道から膀胱内部へ細く柔らかい内視鏡で、膀胱内部の粘膜を細かく観察することができます。あまり気持ちの良い検査ではありませんが、尿道に局所麻酔ゼリーを十分浸透させて上手に行えば、通常痛みはそれほどありません。「膀胱がん」は見た目には、ピンク色のイソギンチャクのような形をしていたり、ピンク色のカリフラワーのような形をしています。

 

膀胱がんの中でも「上皮内がん」は、そのように盛り上がってはおらず、膀胱の粘膜にただれやビロード状の変化を起こしているだけのこともあります。いずれにしても内視鏡の見た目だけで「膀胱がん」であることはほぼわかります。

 

ただし断定することはできないため、最終的には手術で膀胱がんを削って、その削りカスを取り出し「病理検査」に提出し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べることで確定します。つまり手術が終わってから確定診断がつくということです。

 

また、もしも膀胱鏡で膀胱がんが見つかり手術をすることになれば、膀胱がんの「根っこ」の深さや進行度、転移がないかなどを調べるため、「胸部、腹部CT」、「骨盤部MRI」、「骨シンチグラフィー」、「PET」などを行い、治療方針の参考とします。

 

膀胱がんの治療

①筋層非浸潤膀胱がん

「筋層非浸潤膀胱がん」とは、簡単にいうと「初期の膀胱がん」のことです。この状態で見つかれば、がんは「膀胱」の粘膜内にあり内視鏡手術で治ります。この内視鏡手術の正式名称は、「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」と言います。

 

手術は下半身麻酔で行い1-2時間程度で終わります。手術後は尿道にカテーテルというおしっこの管が入りますが、数日で抜けることが多いです。入院期間は1週間程度です。

 

手術の際に「膀胱がん」を削った腫瘍を取り出して「病理検査」に提出し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べることで「膀胱がん」かどうかが最終確定します。また、同時に膀胱がんの「根っこ」の深さも調べてもらうので、「筋層非浸潤膀胱癌」かどうかは手術が終わってしばらくしてわかることになります。

 

仮に「根っこ」が膀胱の粘膜内、つまり内側の浅いところに止まっていれば、「筋層非浸潤膀胱がん」と判断され、内視鏡手術で取り切れたと判断されます。初めて見つかった「膀胱がん」のうち4人に3人は「筋層非浸潤膀胱がん」です。逆に4人に1人は「筋層浸潤膀胱がん」つまり根っこが深かったということになり、「経尿道的膀胱腫瘍切除術」だけでは「膀胱がん」が取りきれないことになります。この場合、「筋層非浸潤膀胱がん」の治療として「膀胱全摘」が必要になります。

 

さて、「筋層非浸潤膀胱がん」であれば、内視鏡手術で取り切れたと判断されると言いました。つまりそれで治ったということになります。ところが「筋層非浸潤膀胱がん」の厄介なところは、いったん全部削り切って治っても、同じような腫瘍が膀胱に再発をすることです。

 

そこで、「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」が終わったあと数年間は、3ヶ月に1回くらいの間隔で、定期的な「膀胱鏡」による検診が必要です。仮に再発があってもなるべく早めに見つけて小さなうちに再度「経尿道的膀胱腫瘍切除術」で削ってしまえるようにするわけです。また、手術後に「抗がん剤」を膀胱内に注入する再発予防治療をしたり、後述するBCGによる再発予防治療をしたりすることもあります。


②膀胱上皮内がん

典型的な「筋層非浸潤膀胱がん」は、ピンク色のイソギンチャクのような形をしています。ところが、見た目が特に盛り上がっておらず、ビロード状に粘膜が「荒れている」だけに見えてるタイプの膀胱がんがあります。このようなタイプの膀胱がんを「膀胱上皮内がん」といいます。ビロード状に粘膜が「荒れている」ように見える病気としては、単なる膀胱の炎症や膀胱炎などの感染症もあり、見た目だけでは区別がつきません。

 

そこで、「膀胱上皮内がん」を疑う場合は、「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」の際に、その部分の粘膜を一部つまみ取って「病理検査」に提出し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。

 

これを「膀胱粘膜生検」と言います。また、盛り上がった腫瘍に対して「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」をした場合でも、見た目に正常部分の膀胱粘膜に「上皮内がん」が潜んでいることもあるため、念の為に膀胱粘膜を数カ所「膀胱粘膜生検」して調べます。

 

このようにして「膀胱粘膜生検」をした結果、「膀胱上皮内がん」と診断された場合は、「BCG療法」という薬による治療を行います。「BCG療法」とは、結核の予防接種(ハンコ注射、と呼ばれるものです)に用いる弱毒化した結核菌を、生理食塩水で溶いて、尿道にカテーテルを入れて膀胱内に注入する治療です。結核菌が膀胱粘膜で炎症を起こす結果、人間が本来持っている「免疫」の力が局所で強まり、がん細胞を排除する働きを利用しているわけです。

 

③筋層浸潤膀胱がん

「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」で削った膀胱がんの組織を「病理検査」で調べた結果、「根っこ」が深くなり、膀胱の壁の深いところ、つまり筋肉まで達していると、内視鏡手術では削りきれていないと判断されます。

 

膀胱の壁は、ある程度の厚みしかありませんので深く削りすぎると穴が開いてしまいますが、その寸前まで削っても、まださらに深いところにがん細胞が残っているということとなります。残っているがん細胞を取り除き、根治を目指すためには「膀胱全摘」といって、膀胱ごと膀胱がんを摘出する手術が必要となります。

 

また「上皮内癌」で「BCG療法」を繰り返し行っても治りきらない場合も「膀胱全摘」が必要となります。

 

「膀胱全摘」で膀胱を取ってしまうと尿を溜めておく場所がなくなるため、何らかの尿の通り道を作り直す必要があります。これを「尿路再建」と言います。「尿路再建」には、お臍の横あたりに「ストーマ」という尿の出口を作って、そこに集尿袋をつけて過ごす方法や、腸管の一部を使って膀胱の代わりの袋状の「新膀胱」を作って、手術後も尿道から排尿できるようにする方法があります。

 

「膀胱全摘」の手術は、「ストーマ」や「新膀胱」の作成も合わせると6〜10時間程度とかなり大掛かりな手術です。以前は、「膀胱全摘」を受ける場合、ほとんどが下腹部の真ん中を切開する「開腹手術」でした。しかし最近では「Da-Vinch」(ダヴィンチ)という手術ロボットを用いた、非常に低侵襲(体にかかる負担が少ないこと)な手術、「ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘」が保険適応となっています。

 

「膀胱全摘」にどうしても抵抗があり自分自身の「膀胱」を残したい場合、「膀胱全摘」に耐えられるだけの体力がない場合には「放射線療法」を行うこともあります。比較的根治性が高い治療ですが、根治性つまり癌を治し切る力は「膀胱全摘」に分があり、また治療が終わってしばらくすると「放射線性膀胱炎」、「放射線性直腸炎」、「消化管瘻孔」などの合併症が比較的多い治療です。

 

安易に膀胱を温存することだけを優先するのではなく、これらの合併症のことも含めて説明を受けた上で、よく考えて治療を選択する必要があります。

 

④転移性膀胱癌

「膀胱癌」の癌細胞が、血液やリンパ液の流れに乗って全身に広がり、リンパ節や肺、肝臓、骨などに転移ている場合、手術で摘出しても全てが取り切れるわけではないため、「全身薬物療法」が必要になります。

 

「全身薬物療法」には「抗癌剤」の点滴治療をします。また「抗癌剤」で治療しても無効な場合は、「免疫チェックポイント阻害薬」の点滴治療があります。

 

膀胱癌の予防、注意点

喫煙者は膀胱癌になりやすいと言われていますので注意が必要です。

 

また一部の特殊な有機溶媒(トルエンなど芳香族物質)には膀胱癌の発癌物質と言われていますので、そのような物質を扱う職種の方は定期的な尿検査による検診が必要です。

 

「経尿道的膀胱腫瘍切除術」で「膀胱癌」を削り取り、「根っこ」が浅いと判断されたということは、「表在性膀胱癌」であったためそれで治ったということになります。

 

ただし、「表在性膀胱癌」の厄介なところは、比較的同じような癌が「再発」することです。早期に「再発」を見つけることができれば、「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」を早めにすることで対処可能です。

 

そこで、「経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt」で治療をした後は、定期的な「膀胱鏡」による検診を受けることが重要です。

 

泌尿器科専門医 石村武志

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