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精巣癌

精巣(せいそう)つまり”きんたま”に出来るがんが、「精巣がん」です。若い男性にできることが多いのが特徴です。早めに異常に気づいて病院を受診すれば、片方の精巣を摘出するだけで根治することが多い病気です。また、仮に見つかった時点で転移があっても、抗がん剤治療がよく効くということも特徴の一つです。恥ずかしい気持ちが先立ち、つい受診が遅れてしまうことも多いようです。そのわずかなためらいが、治るかどうかの分かれめとなることも珍しくありません。異常に気づいたらとにかく早く泌尿器科を受診しましょう。

 

精巣がんとは

”キンタマ”は、正式な医学名では「精巣」(せいそう)と言います。「睾丸」(こうがん)と呼ばれることもありますが、医学的に正式な名称は「精巣」です。「精巣」は、「精子」を作ったり「男性ホルモン」を作るなど、男性にとっては非常に大事な働きをしています。
男性ならみなさん知っていると思いますが、「精巣」は「陰嚢」(いんのう)つまり”たまぶくろ”の中に左右あわせて2つ入っています。

この精巣(せいそう)に出来るがんが、「精巣がん」です。10万人に1人とかなり稀ながんですが、20〜30歳代の男性のなかで最も多い固形臓器がん(血液のがん以外)です。
がんが小さいうちはほとんど症状がなく気付きません。そのうち精巣にしこりが出来たり大きくなって気づきます。ただし痛みはほとんどなく、場所が場所だけにしばらく放置してしまう方が多いようです。進行してくると腫瘍の内部で出血や感染が起こり痛みが出たりすることもあります。またがんが進行して転移を起こすと、その部分によって咳や呼吸困難、頚部リンパ節の腫れ、乳首の疼痛などが出てきます。


ひとくちに「精巣がん」と言っても、大きく2つに分けられます。「セミノーマ」と「非セミノーマ」です。さらに「非セミノーマ」は細かく4つほどに分けられます。それぞれ種類が違うと、微妙に進行のスピードや抗がん剤の効き具合が変わってきます。

精巣がんの治療は上で述べた、がんの種類と進行度によって大きく変わります。がんが精巣の中だけにとどまっていれば、がんがある側の精巣を摘出することで根治可能です。ただし、精巣がんは進行するとお腹のリンパ節や肺、肝臓、骨、脳に転移します。そのような場合は、放射線治療や抗がん剤治療が必要になります。転移を認める場合でも、精巣がんは特に抗がん剤治療が非常によく効くため、根治が期待出来ます。

まれに「ここまでよく我慢したな、、」と思うほど進行してから病院を受診される患者さまがいます。場所が場所だけに恥ずかしいという思いと怖いという思いが混ざって、抵抗を感じること。そして、やはり若い患者さまが多いため、どうしても1人で抱え込んで悩む傾向があるのがその原因と思われます。
精巣が赤ちゃんの頭くらいに腫れ上がり、お腹のリンパ節が腫れ上がりパンパンになり、肺の転移巣のせいでほとんど呼吸ができない状態で病院に運ばれてくるのです。このような状態からでも治る可能性のあるのが精巣がんです。ただし、ここまで進行してしまっていると、あろ少し、、というところでがんの勢いが抗がん剤の効果を上回ってしまうこともあります。そうなると、残念ながら若くして命を落とすこととなります。医療者としては、「そこまでなる前に受診していれば、、」と感じることが何度もありました。

これを読まれた方で精巣が腫れてきて少し気になっている方がいれば、一刻も早く病院を受診しましょう。もちろん、単なる取り越し苦労という可能性もあります。それならそれで早く安心したいですね。

 

精巣がんの症状

一般的には、精巣がんは痛みを伴わずに精巣にしこりができたり大きくなってきたりすることで気づきます。精巣は楕円形をしていますが、長さが2.5〜3.5cm程度が正常です。ぶどうの粒くらいからちょっと小さめの卵くらいでしょうか。左右の大きさは微妙に違うことがほとんどです。普段から精巣を気にして触る人もあまり多くないので、ごく小さなうちはわからないことも多いでしょう。

痛みを伴わない、と言いましたが、中には腫瘍の内部に軽い出血があったりすると、微妙に痛みが出てそれによって気づくというパターンもあるようです。また、性行為などの際にパートナーに指摘されて異常に気づいたりすることもあります。最近では、不妊症のため医療機関を受診し、その際に超音波検査で見つかるということもあるようです。

みなさんのなかで、以前はそんなことはなかったのに、精巣が卵よりも大きくなってきて左右のバランスがおかしい、などという場合は、精巣がんの可能性が十分あると思います。1日でも早く泌尿器科を受診することをお勧めします。

精巣がんは進行の早い癌です。がんが転移を起こすと、それによる症状も出ます。腹部リンパ節に転移が出ると、お腹が腫れたり足が浮腫んだりすることがあります。また、肺に転移が出ると咳や呼吸困難が出ます。それ以外にも、頚部リンパ節の腫れ、脳の転移によるふらつき、骨の転移による痛みなども起こりえます。またがん細胞が出すホルモンによって、乳首が大きくなり擦れて痛みがが出ることもあります。

 

精巣がんの診断

まずは問診で、いつ頃から腫れやしこりに気づいたか、痛みはあるかなどをお聞きします。子供の頃に「停留精巣」の手術をされたことがある方は、精巣がんのリスクになります。またご結婚されておこさまがいるかどうかも後の治療方法のためにお聞きしておきます。

触診・視診による診察を行います。同じように精巣(キンタマ)や陰嚢内容(たまぶくろの中身)が腫れたり、痛みが出たりする病気として、「陰嚢水腫」、「急性精巣上体炎」、「精巣捻転」、「精索静脈瘤」などがあります。見た目や触った感じの痛みの性質などで、ある程度区別がつくこともあります。

検査としてはまず、「超音波検査」で陰嚢の中身を調べます。「陰嚢水腫」は「精巣」の周りに水が溜まっているのがすぐにわかります。「急性精巣上体炎」の場合は、超音波検査で調べると、腫れているのは「精巣」でなく「精巣上体」であることがわかります。精巣がんの場合、精巣自体が大きく腫れていたり、内部がまだらになっていたりするため、この時点でほぼ確定的となることも多いです。ただし、「精巣がん」があるということがわかっても、さきほど説明した細かい分類や、転移があるかないか、を調べる必要があるので、引き続き検査を行います。

採血検査も必ず行います。精巣がんで特に重要なのが「腫瘍マーカー」のうち、「AFP:アルファフェトプロテイン」、「HCG(-β):エッチシージー(ベータ)」、「LDH」(エルディーエッチ)の3項目です。この3種類の腫瘍マーカーの値により、細かい分類が類推できます。その後は、「CT検査」や「PET検査」、「MRI検査」、「骨シンチ検査」などを行います。先ほどの3種類の腫瘍マーカーの値と組み合わせ、精巣がんの細かい分類と進行度を判断します。


これらのさまざまな画像検査で、がんが精巣だけに止まっていれば転移なし、つまりstageIと判断されます。ただし、例外的に事項で述べるように精巣を手術で摘出した後も腫瘍マーカーが下がり切らないことがあります。その場合は、どこにあるかはわからないがどこかに微小な転移があると判断します。

 

精巣がんの治療

Stage I(がんが精巣にとどまる)

もしも、がんが精巣にとどまっており、他の臓器に転移を認めなかった場合は、StageIと判断されます。治療として、がんがある側の精巣を手術で摘出します。手術の名前を「高位精巣摘除術」と言います。精巣はご存知の通り、①精子を造る、②男性ホルモンを造る、という重要な役割がありますが、正常な精巣は片方でも役割を果たすことが可能です。ただし、のちほど述べますが片方の精巣にがんがある場合、もう片方の精巣の精子を造る能力が低下して「無精子症」となっていることもあります。

なお、精巣がんの細かい分類は、摘出した精巣を顕微鏡で詳しく調べる「病理検査」で最終確定します。また病理検査でわかるのは、精巣がんの細かい分類だけではありません。同じ分類のなかでも悪制度や浸潤転移のしやすさの指標である、「微小リンパ管浸潤」や「微小血管浸潤」などもわかります。また精巣のなかにとどまているとはいえ、精巣の殻にがん細胞が染み込んできていたが、精巣の根っこである「精索」にまでがん細胞が進んできていたかなどもわかります。

仮に「微小血管浸潤」を認めたり、「精索」にまでがん細胞が進んでいたりすると、再発する確率が高いと言えます。このような場合は、再発予防のための抗がん剤治療を追加することもあります。

また精巣がんで「高位精巣摘除術」をした後数週間は、「腫瘍マーカー」の値を定期的にチェックします。一定期間で腫瘍マーカーが陰性になれば、精巣を摘出したことでがん細胞が全て取り除かれて治った、と判断します。仮に一定期間ののちも腫瘍マーカーが下がり切らず陽性のままである場合、からだのどこかにがん細胞が残っていると判断して、事項のstageIIと判断して、seminomaであれば抗がん剤か放射線療法を、非seminomaであれば抗がん剤治療を追加します。

病理検査の結果、再発リスクが高い所見はなく、腫瘍マーカーが下がり切った、という場合は、「高位精巣摘除術」で根治できたと判断し治療は終了です。ただし、このような場合であっても、2割程度の方が再発すると言われています。再発する可能性がわずかにあるのに予防治療をせずに様子を見るなんて不安だ、と思われる方がいるかもしれません。

2割の再発のために、再発予防の抗がん剤や放射線療法を行うという選択肢は正しいでしょうか? 精巣がんのStage Iで手術した場合、病理検査で再発リスクが高い所見がなく、腫瘍マーカーが下がり切った時は、再発予防の抗がん剤治療はお勧めしないことがほとんどです。①仮に再発したとしても、その時点で治療すればほぼ確実に根治できる ②残り9割の再発しない方に無駄な治療(しかも副作用を伴う)をすることになる、以上の2つの理由があるからです。逆に言うと、万が一再発した場合は早期に発見して治療することが非常に重要と言うわけです。定期診察は必ず受けるようにしましょう。また残った反対側の精巣を大事にして、お風呂にはいる時に定期的にしこりがないかをチェックするようにしましょう。

 

Stage II〜III(がんが転移している)

精巣がんと診断されて、リンパ節、肺、肝臓、骨、脳などに転移が見つかった場合、Stage IIもしくはIIIと判断されます。この場合でも治療は、まず精巣の手術、「高位精巣摘除術」を行います。摘出した精巣を顕微鏡で詳しく調べる「病理検査」で、精巣がんの細かい分類「組織型」を判断するためです。そして、画像でわかる転移の程度、組織型、腫瘍マーカーの値により、抗がん剤の種類や回数などが決定されます。

これらがわかれば出来るだけ早く抗がん剤治療を開始します。どの状態であっても、Stage II〜IIIの精巣がんの場合、一般的にはシスプラチン、エトポシド、ブレオマイシン、もしっくはシスプラチン、エトポシド、イホスファミドという3種類の抗がん剤の併用療法を、まずは3〜4コース行います。これはこの30年ちかく変わらず安定した効果を発揮しているGold standard治療です。抗がん剤には骨髄抑制(白血球が減り感染を起こしやすくなる、貧血になる、血小板が下がり出血しやすくなる)、吐き気、脱毛、下痢、倦怠感、痺れなどの副作用はつきものです。抗がん剤の種類は変わっていませんが、これらの副作用に対する薬は年々改良されているので、一昔前のようにとてもしんどい治療ではなくなってきてきます。(ただし、副作用には個人差があります。)

この抗がん剤併用療法で、転移巣が消え去り、かつ腫瘍マーカーが陰性になれば治癒したと判断できます。一方で4コース以上行っても治り切らない場合は、さらに抗がん剤を変更して数コース行うこととなります。次の段階の抗がん剤は施設によって異なることがあり、どれが絶対的に最も効果があるかは意見の分かれるところとなっています。パクリタキセル、イホスファミド、ネタプラチンなどの抗がん剤が使用されることが多いです。

基本的に転移が消えるまで、腫瘍マーカーが消えるまで、抗がん剤を繰り返すこととなります。ただし、もともとの転移巣が大きい場合は、腫瘍マーカーが陰性になっても、ある程度の大きさのかたまり(つまりがん細胞の死骸)が残ることがあります。

このかたまりは、リンパ節転移の治療後であることが多く、全てががん細胞の死骸である場合と、ごくわずかな生きたがん細胞が含まれる場合、奇形種という抗がん剤が効きにくくなおかつ腫瘍マーカーを産生しない性質をもつ腫瘍の3つの可能性があります。画像検査や腫瘍マーカーで判断することは難しいため、最終的には残ったかたまりがある程度の大きさ以上であれば、手術で摘出することになります。「後腹膜リンパ節郭清」という手術になります。

もしも、抗がん剤を続けても転移巣が小さくならなかったり、腫瘍マーカーが陰性にならなかった場合は、とにかく効果がある限りは治療を続けます。通常、最初がどれだけ大きな転移巣で腫瘍マーカーがどれほど高くても、あと一歩、というところまで腫瘍マーカーは下がります。ただしこのあと一歩まで来たところで、もう有効な抗がん剤の次の一手がない、あるいは有効な抗がん剤はあるが、副作用が積み重なり身体が耐えきれなく、これ以上続けると副作用で命を落とす、と言う状態になってしまいます。残念ながらこうなると現在の医療の限界となります。

 

精巣がんの注意、予防

精巣がんは転移しやすく進行も早い反面、抗がん剤がよく効き、よほど進行した状態でなければ一旦は治ったと判断される状態となります。ただし、一定の割合で再発すること、非常に進行した状態で治療を始めると治り切らないこと、などもあり、できるだけ早く、医療期間を受診することが重要です。私が研修医だった20数年前などは精巣がんの患者さまが外来受診された時には即日入院して、その日の夕方に緊急手術をしていたものです。明日まで様子をみてその間に転移をしたらどうする、、というスタンスでした。ただし、最近ではそこまで緊急の手術をする必要はなく、むしろしっかり検査を行い、状況を判断してからがよいとなっています。それでも1週間以内に手術をすることがほとんどです。

そしてどの段階であっても、治った判断しても再発の可能性がゼロではありません。定期受診と残った精巣のセルフチェックは欠かさず行いましょう。

また、治療により片方の精巣を摘出して抗がん化学療法を行うと、残った片方の精巣も精子を造る機能が低下します。治療後に将来こどもを作りたいと考えてい方は、治療前に精子を凍結保存しておき、将来必要な場合に体外受精に使用することができます。また、片方の精巣にがんがあると、もう片方の精巣の精子を作る力が弱くなっていることが多く、射精した精液中の精子が非常に少ないことがあります。そのような場合は、摘出した精巣のがん以外の部分から精子を直接取り出して凍結保存する方法なども試みられています。治療前に必ず主治医に相談してみましょう。

泌尿器科専門医 石村武志

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