腎移植マニュアル 2. 腎不全とは
「腎臓」は体内の老廃物や余分な水分、ミネラルなどを尿として排泄しています。また「腎臓」には、尿を作る以外にも、血液を作るホルモンを出す、骨を維持するのに必要なビタミンDを活性化する、血圧を調整するホルモンを出す、などの働きもあります。
「腎臓」の働きが悪くなることを「腎不全」といいます。「腎不全」になると、もともと「腎臓」が担当していたさまざまな調整機能が働かなくなり、全身の水分バランスが崩れたり、体内に老廃物が溜まったりすることによりに、体にとって不都合な影響が色々と出てきます。
「腎不全」には、数時間から数週間で急に進む「急性腎不全」と、ゆっくりと長い時間をかけて腎臓の働きが悪くなる「慢性腎不全」の2つのパターンがあります。
最近では、「急性腎不全」は「急性腎障害」、「慢性腎不全」はごく初期段階の状態も含めて「CKD; 慢性腎臓病」と呼ばれることが多くなりました。
本項は「急性腎不全」と「慢性腎不全」を対比させながら「腎不全」の説明をしていくので、わかりやすくするために「急性腎不全」、「慢性腎不全」という用語のまま説明を続けます。
「急性腎不全」は、極端な脱水や重症の心不全、全身感染症によるショック状態などが原因となったり、「腎臓」自体の病気である「腎炎」の一部、「腎臓」を障害する作用のある薬剤(造影剤など)などが原因となります。
「尿管結石」や「神経因性膀胱」、「前立腺肥大症」などの泌尿器科の病気でも、重症の場合は「急性腎不全」の原因となりえます。
「急性腎不全」は、急激に発症することが多い反面、原因となっている状態を取り除いたり、病気を治療することで、腎臓の機能が回復する可能性があります。
いっぽう、「慢性腎不全」は、初期のうちはほとんど症状が出ず、病院で検査をしなければわからない、あるいは病院を受診しても特殊な検査を受けないとわからない、という病気です。
数年から数十年かけて、いよいよ進行し「腎臓」の働きが限界に近づくと、数ヶ月程度でだんだんと症状が出始めてきます。
腎臓の働きが回復する可能性のある「急性腎不全」と異なり、一定の時期を過ぎた「慢性腎不全」は回復することは難しく、ごく早期のうちから進行しないような対策を打つことが重要です。
「慢性腎不全」の原因となる病気は、「糖尿病」、「高血圧」、「脂質異常症」などの生活習慣病や、「腎炎」の一部、「多発性嚢胞腎」、「先天性尿路奇形」などの「腎臓」自体の病気があります。
特に、「糖尿病」や「高血圧」、「脂質異常症」などの生活習慣病は、高齢者の方のなかではありふれた病気で、このような病気がなぜ腎不全と関係あるのか不思議に思われる方もいるかもしれません。
「糖尿病」や「高血圧」、「脂質異常症」は、いずれも腎臓の中の細かい血管に少しずつダメージを与えることで、少しずつ「腎臓」の働きを障害していくのです。
「慢性腎不全」のごく初期の症状は、夜間の尿回数が増える「夜間頻尿」や、尿に蛋白がおりることで生じる「尿の泡立ち」などがあります。
これらは「前立腺肥大症」や「過活動膀胱」など泌尿器科の病気が原因で出ることもあり、症状だけで「慢性腎不全」かどうかはなかなかわからないことが多いです。
「急性腎不全」や、「慢性腎不全」が進行した「末期腎不全」の状態では、「腎臓」がもともと担当してる働きが低下することで様々な症状が出ます。
体の余分な水分を尿として排泄する働きが低下することで、体に余分な水分がたまり、まぶたや、手足が浮腫んできます。
腸が浮腫むことで下痢をしやすくなったり、お腹が張ったり背中に痛みが出たりします。また、全身をめぐる血液の量が水で薄まり増えることで心臓に負担がかかり、息切れが出たり、血圧が上がります。
また、体の老廃物である尿毒症物質が体内に溜まることで頭痛が起こったり、吐き気が出たりもします。
体液のバランスが崩れカリウムという電解質濃度が上昇し、重症の場合は重症の不整脈が出て心臓が止まることさえあります。
他にも、血液を作るホルモンが足りなくなり立ちくらみなどの貧血症状が出たり、骨を作るビタミンDの活性化が不十分となり骨が脆くなり骨折したりします。
このように「急性腎不全」で「腎臓」の働きが回復しなかった場合、あるいは「慢性腎不全」でいよいよ病状が進み腎臓の働きが限界となった場合は、「末期腎不全」と呼ばれる状態となり、上にあげたようなことが原因で最終的には命に危険がおよびます。
そこで回復不可能と判断された「腎臓」の働きの代わりを担当して、生命を維持するために余分な水分や老廃物を排泄したり、電解質のバランスを整えるための治療が「腎代替療法」です。
「腎代替療法」には、「透析療法」と「腎移植」があります。「透析療法」には、「血液透析」と「腹膜透析」があります。「腎移植」には「生体腎移植」と「献腎移植」があります。