男性更年期障害
中年以上の男性で、男性ホルモンの1種であるテストステロンが減少して、抑うつ、意欲減退、不眠、性欲低下などが出ることを男性更年期障害(LOH症候群)と言います。血液中のテストステロン値を測り、低い場合は注射でテストステロンを補充することで症状の改善が期待できます。
目次
男性更年期障害とは(概要)
「男性更年期障害」の医学的な正式名称は、「加齢男性性腺機能低下症候群」です。
「LOH 症候群」(Late-Onset Hypogonadism)とも呼ばれます。「Late-Onset 」は「晩期発症」、つまり加齢により出てくるという意味です。
「Hypogonadism」は日本語に訳すと「性腺機能低下症」となりますが、「性腺」とは男性ホルモンを分泌する「精巣」つまり ”キンタマ"のことです。
つまり「加齢男性性腺機能低下症候群」や「LOH 症候群」をわかりやすい言葉で言い換えると、「歳をとってきて、 若い頃のように、“キンタマ” で男性ホルモンを十分に作ることができなくなり、そのせいで体力低下、意欲減退や性欲低下が出てきた状態」という意味になります。
もっと簡単にいうと、「歳をとり男の活力がなくなってきた」状態です。
更年期障害といえば女性の悩みと思いがちですが、最近ではテレビや雑誌で取り上げられることも多く、「男性更年期障害」は広く知られるようになってきました。
「男性更年期障害」の症状としては、主に、発汗やほてり、疲れやすさ、不眠、筋力低下、骨密度低下などの「身体症状」、不安、意欲低下、抑うつ感、記憶力や集中力の低下などの「精神・心理症状」、性欲低下や勃起障害(ED;Erectile dysfunction)などの「性機能関連症状」の3つに大きく分けられます。
女性の更年期障害はだいたい50歳前後と決まった年齢で出てくることが多いのですが、「男性更年期障害」は中年以降のさまざまな年代で出てきます。
50~60歳代の方が多いのですが、早い場合は40歳すぎで出ることもあります。
また、意欲低下や抑うつ感、疲れやすさがあっても、通常は「男性更年期障害」と気づかないこともよくあります。
「うつ病」として精神科で抗うつ剤で治療されている方がおり、そのような方の中には、じつは「男性更年期障害」の方が含まれていると言われています。
「男性更年期障害」で低下する男性ホルモンを、「テストステロン」と言い、主に「精巣」で作られています。
「テストステロン」が低下する一番の原因は加齢です。その他の原因としては、心理的ストレスや過労などがあります。
ストレスが続くと、「脳」から出て「精巣」へ「テストステロンを作れ」と命令するホルモンの働きが弱まり、「テストステロン」が減ってしまいます。
40歳代以上というのは、年齢的に「テストステロン」が減り始める時期です。それに加えて、職場や家庭などでも様々なストレスがかかりやすい年代であることも重なり、「男性更年期障害」を生じやすいというわけです。
「男性更年期障害」は、「性機能関連症状」、「精神・心理症状」、「身体症状」のそれぞれについて、合計17の質問からなる「AMS質問表」(Aging Male symptom score)という専用の問診票の内容と、採血によってわかる「テストステロン」を含む種々のホルモン検査の値で診断します。
これらの検査の結果、「テストステロン」が明らかに低い場合は、保険診療で「テストステロン補充療法」を行うことが可能です。
「テストステロン補充療法」は、通常2〜3週間に1度の筋肉注射として行い、これを6ヶ月程度続けて症状の具合によりその後も続けるかどうかを判断します。
もしも、「テストステロン」がやや低下〜正常の方の場合は、保険診療適用ができないため自費治療となります。
ただしこのような方でも、保険診療適用がないからと言って、必ずしも「テストステロン補充療法」が無効というわけではなく、効果を認められる方もいます。
ご希望があれば十分に説明のうえ治療を受けていただくようにしております。
男性更年期障害の症状
「男性更年期障害」の症状は、すぐに疲れる、疲れが取れにくい、朝起きた時に身体がだるい、不安、いらいら、不眠、抑うつ、食欲低下、記憶力の低下、ほてり、めまい、動悸、精力の低下、勃起障害(ED)、夜間頻尿など、色々あります。
それらは、大きくわけると「身体症状」、「精神・心理症状」、「性機能関連症状」の3つということになります。
「身体症状」、「精神・心理症状」などは、単に「疲れが溜まっているだけだ」と思われていることも多いですし、「うつ病」などの精神疾患として治療されている場合も少なくありません。
事実、「うつ病」の方のなかには「男性更年期障害」の方が含まれ、「男性更年期障害」の方は「うつ病」になりやすいなどがあるため、「男性更年期障害」と「うつ病」ははっきり区別できる場合の方が少ないとも言えます。
ただしそのような「うつ病」として治療されている方の中で、「男性更年期障害」を診断して治療することで、不安、いらいら、不眠、抑うつなどの症状がよくなる方が一部いるのが事実です。
「男性更年期障害」は働き盛りの40~60歳の方に多いのですが、特に真面目で責任感のあるリーダータイプの方がなりやすいとも言われています。
そのような方は、疲労感、不安、いらいら、不眠などのせいで、仕事に支障をきたす、と言って病院を受診されることが多いようです。
「男性更年期障害」の原因である「テストステロン」の低下は個人差が大きい上に、比較的緩やかに起こってきます。
女性の更年期障害はだいたい50歳前後と決まった年齢で出てきますが、これは閉経をきっかけに体内のホルモンバランスが大きく変わるためです。
いっぽう「男性更年期障害」は決まった年齢で起こるわけではないことも気づきにくい原因のひとつです。
男性更年期障害の診断、検査
「男性更年期障害」を診断するためには、「問診」と「血液検査」が必要です。症状の重症度をしっかり把握するため、専用の問診を行います。
「身体症状」、「精神・心理症状」、「性機能関連症状」のそれぞれについて、合計17個の質問からなる「AMS質問表」という問診票ですが、ひとつずつの質問が1〜5点からなります。
全ての質問で最も重い症状に該当する場合は17×5点=85点、全ての質問で症状がほとんどない場合は1×5点=5点となります。
26点以下は特に問題なし、27〜36点で軽度、37〜49点で中等度、50点以上で重度の「男性更年期障害」に該当する症状とされています。
また、「男性更年期障害」は、そのような症状が「テストステロン」の低下によって生じている、というのが前提です。
そこで、「血液検査」で、「テストステロン」の値を測定します。同時に「テストステロン」が下がっている原因が本当に加齢によるものなのかどうかを調べるために、「FSH」、「LH」、「PRL」などの「脳」から出される「性ホルモン」も測定します。
「テストステロン」は朝に最も高くなり夕方にかけて段々下がると言われており、これらの「血液検査」は午前中に行う必要があります。
「AMS質問表」が診断基準以上の値でかつ「血液検査」の結果「テストステロン」が低く、「男性更年期障害」と診断されます。
この場合、「テストステロン補充療法」を行うことで、症状の改善が期待できますが、なかには「テストステロン補充療法」を行わない方がよい方がいます。
それは「前立腺癌」の疑いがある方、「多血症」といって血液の中の「赤血球」が異常に濃い方、「肝臓」の機能が悪い方、です。
そこで「血液検査」を行い「テストステロン」の値を調べる場合、これらの病気がないかどうかを調べるため項目も含め同時に調べます。
男性更年期障害の治療
まずは薬に頼らず、自分自身の生活習慣の改善で「テストステロン」を上昇させて「男性更年期障害」を解消できる方法を考えましょう。
特に睡眠は最重要事項です。夜間睡眠中は精神、身体が休まることで、自律神経が落ち着きテストステロンが分泌されやすくなります。
また運動をすることも同じくらい大事です。運動の刺激自体で「テストステロン」は上昇すると言われていますし、運動の効果が出てきて体脂肪率が減ることによっても「テストステロン」が増えると言われています。
逆に「テストステロン」が増えると体脂肪が減りやすくなり、また運動などの意欲も湧いてくるので、よいサイクルになるといえます。
ただし、それは十分わかっているけど、激しい仕事を続けながらそのようなことを実行するのは現実的に難しい、、と思われることでしょう。
このように自分自身で「テストステロン」を作り出す生活習慣を作ることが難しい場合は、「テストステロン補充療法」を行うことになります。
なお、採血検査で「テストステロン」がかなり低い方については「テストステロン補充療法」は保険診療で行うことができます。
「テストステロン」を測定したけど、数値があまり低くないこともあります。それでも、自分自身は間違いなく「男性更年期障害」であると思っている方で、実際「AMS質問表」をみても確かに「男性更年期障害」に該当する症状があると判断された場合は、自費診療で「テストステロン補充療法」を受けてみることは可能です。
「テストステロン補充療法」として、現在日本で認可されているのは筋肉注射です。注射を行う頻度は、通常2~4週に1回程度で症状いによって変更します。
注射を始めてから3か月以内に効果が実感できるようになることが多いですが、最低6ヶ月は継続して効いているかどうかを判定します。
効果があったとして、いつまで「テストステロン補充療法」を続けるかは特に決まりはありません。1年あるいは2年を目安に、試しに一度やめてみる、というのはひとつの方法です。
人によっては「テストステロン補充療法」をやめても、そのまま好調を維持できることもありますし、やはり「テストステロン補充療法」をしていないと気分が落ち込み体調が悪くなってくる方もいますので、そのような方では治療を再開することとなります
「テストステロン補充療法」を行うにあたっては、注意事項がいくつかあります。「テストステロン」にはある種の病気を悪化させる作用があることです。
ある種の病気とは「前立腺癌」、「多血症」です。
そこで、「テストステロン補充療法」を始める前に「前立腺癌」、「多血症」がないかどうかを「血液検査」で確認します。
また、治療を始めてからも定期的に「血液検査」を行なって、「前立腺癌」、「多血症」がないかどうかを調べます。また同時に「テストステロン補充療法」の副作用で「肝機能障害」が出てきていないかをチェックします。
また、「テストステロン補充療法」を受けるに当たってのもうひとつの注意点として、特に40歳前後の比較的若年男性の場合、体外から「テストステロン」が入ることによって、「精子」を作る力が弱くなり、「男性不妊症」の原因となる可能性があるということです。
「男性ホルモン」の2種である「テストステロン」を補充すれば、精力が増して「精子」が増えるのではないか、と思ってしまいそうですが、それは違います。
「精巣」には「テストステロン」を作る働きと「精子」を作る働きがあります。
「テストステロン」が外部から入ることによって「精巣」が十分働いている、と「脳」が勘違いし、「精巣」で「精子」を作るように命令するホルモンをしっかり出さなくなってしまうからです。
男性更年期障害の予防、注意点
「男性更年期障害」の原因は「加齢」、「ストレス」、「睡眠不足」、「運動不足」です。
普段からこれらに注意して生活することで、できるだけ自分自身の体で、つまり「精巣」で、「テストステロン」がたくさん作られ、活力に満ちた人生を送ることが理想です。
そうはいってもなかなか思うようにいかないのが現実です。「もしかして自分は男性更年期障害かもしれない」と思い当たる方は、あまり考えこまずに病院を受診しましょう。
また「男性更年期障害」の方は、「糖尿病」、「高血圧」、「高脂血症」など、いわゆるは、「生活習慣病」が起こりやすくなると言われています。
つまり、逆を言えば「男性更年期障害」が解消されることで「生活習慣病」がよくなるかもしれない、ということです。実際、「テストステロン」の値が正常な方と、低い方を比べると、「テストステロン」の値が正常な方の方が長生きできる、といったデータも出ています。
残念ながら日本では、健康保険が適用となる治療は、実際に「テストステロン」が下がっている「男性更年期障害」の方に対する「テストステロン補充療法」に限られます。
ただし「男性更年期障害」の症状が出ている方で「テストステロン」の値が正常値であったとしても、「テストステロン補充療法」を行うことで効果が出ることもあります。
もしも「テストステロン」の値を調べて正常であっても、「テストステロン補充療法」を試してみたいという方には、自費診療で「テストステロン補充療法」を行っても良いでしょう。